ベッドの隣は、昨日と違う人
36話 言いかけた言葉





そこからみいなは、結婚式の話を一気にし始めた。

美咲がどれだけ綺麗だったか。
生い立ちムービーに自分が映ったときの驚き。
料理がおしゃれで、どれも美味しかったこと。

話すたびに、みいなの目はきらきらして、大地は相槌を打ちながら、それを静かに聞いている。

「いいなぁ、結婚式……」

みいながカップを両手で包みながら、ぽつりと零す。

「わたしも、いつか……できるのかなぁ」

間が空いた。

大地はすぐに答えず、チャイをもう一口飲んでから、みいなのほうを見る。

「……できるだろ」

「即答?」

「即答」

短く言って、少しだけ姿勢を正す。

「みいな、最近変わったし」

「え?」

「それに……」

一瞬、言葉が止まる。
視線がみいなのドレスワンピースの裾に落ちて、すぐに戻る。

「今日の格好見てたらさ。
綺麗になったし……」

「……大地……」

みいなが名前を呼ぶと、大地は口を開きかけて、閉じた。

「俺だったらさ……」

「……え?」

一拍。

大地は軽く咳払いをして、視線を窓の外に逃がす。

「いや、なんでもない。
……みいなは、幸せな結婚、できると思うってこと」

みいなはしばらく黙って、それから小さく笑った。

「……ありがとう」

その言葉に、大地は何も返さず、ただチャイのカップを持ち上げた。

けれど、指先はさっきよりも、少しだけ力が入っていた。




「そろそろ、行く?」

大地が腕時計に視線を落として言った。
チャイのカップは、もうどちらも空に近い。

「うん、じゃあ……」

みいなは椅子から立ち上がり、ワンピースの裾を軽く整える。
少しだけ深呼吸してから、改めて大地のほうを向いた。

「今日は、よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げると、大地は一瞬きょとんとした顔をしてから、照れたように視線を逸らす。
そのまま、照れ隠しみたいに短く返した。

「おう、任せとけ」

立ち上がった大地は、さりげなくみいなの上着を手に取って差し出す。
受け取るとき、指先がほんの一瞬だけ触れた。

カラン、とドアのベルが鳴る。
外に出ると、夕方の空気がひんやりしていて、さっきまでのチャイの甘さがふっと遠のいた。

並んで歩き出すと、大地は自然に歩幅を合わせる。
人通りのある道では、みいなの外側に立つ位置を選んでいた。

レストランが近づくにつれて、同じようにドレスアップした人たちが目に入る。
楽しそうな笑い声、少し高揚した空気。

大地は入口の前で立ち止まり、周囲を一度だけ見渡す。
それから、みいなのほうへ視線を落とした。

「……人、多そうだな」

「うん。でも、なんか楽しそう」

そう答えると、大地は小さく頷き、先にドアを開ける。
中から溢れてくる音楽と話し声に、一瞬だけ足を止めたみいなの背中を、視線で待った。

「行こ」

短くそう言って、先に一歩踏み出す。
みいなもそのあとに続いた。

――ここから、二次会が始まる。



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