ベッドの隣は、昨日と違う人
45話 もう、戻れない
駅までの道は、なんだかくすぐったかった。
さっきまでと同じ道なのに、足元の感覚が少し違う。
今日は一緒に改札を抜けて、同じ電車に乗り込む。
人の少ない車内で、向かい合って立つ距離も、妙に意識してしまう。
大地が降りるまで、あと一駅。
アナウンスが流れた瞬間、みいなの胸がきゅっと鳴った。
「みいな、今日はありがとな」
大地は照れたように視線を逸らしながら、続ける。
「温泉……さ、楽しみにしてるから」
その言い方が、どこか慎重で、でも確かな期待を含んでいて。
みいなは思わず、少しだけ背筋を伸ばした。
「う、うん。
こっちこそ今日は本当にどうもありがとう」
ぎこちなく返した声に、大地は小さく笑った。
「じゃあな」
「うん、おやすみ」
電車が止まり、ドアが開く。
大地は一歩外に出てから、振り返った。
ドアが閉まるまで、
そして閉まってからも――
見えなくなる、その瞬間まで。
大地は、みいなを見送り、みいなもまた、目を離さなかった。
胸の奥に残ったのは、安心とも、名残惜しさとも違う、静かで、あたたかい余韻だった。
電車が動き出しても、みいなはしばらくその場から動けなかった。
窓に映る自分の顔が、少しだけぼんやりして見える。
(……なんだろ。胸の奥が、まだあったかい)
ただ駅まで一緒に歩いて、同じ電車に乗って、普通に別れただけなのに。
それだけなのに、今日一日の出来事が、ゆっくりと胸の中で沈殿していった。
家に帰ってシャワーを浴びて、髪を乾かして、ベッドに潜り込んだのに。
天井を見上げたまま、まぶたを閉じても、今日の帰り道の場面が何度も浮かぶ。
大地の横顔。
電車の窓に流れる光。
低い声で言った、
「楽しみにしてるから」
あの言い方。
少しだけ、間を置いた声。
(……ずるい)
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「友達でいられない」
「引く気はない」
あれ、どう考えても――
ただの冗談とか、勢いとか、そういう軽い言葉じゃなかった。
(……大地、わたしのこと……)
そこまで考えて、みいなはごろんと寝返りを打つ。
嬉しい。
素直に、すごく嬉しい。
でも同時に、同じくらい怖い。
この一線を越えたら、もう前みたいには戻れないって、ちゃんと分かってるから。
スマホを枕元に置いたまま、ため息をひとつついた、そのとき。
画面が、静かに光った。
📱
「みいな、今日はおつかれ」
「明日早いのに俺……今日のことばっか考えて眠れないかも」
一瞬、呼吸が止まる。
(……え)
わたしだけじゃ、ない。
画面を見つめたまま、指先が少し震える。
ゆっくり息を吸って、文字を打つ。
📱
「うん、わたしも」
「今日疲れたはずなのに、全然眠れそうもない」
送信して、スマホを胸の上に置く。
天井は相変わらず静かで、部屋も暗いままなのに。
心臓の音だけが、やけにうるさい。
(これ……もう、戻れないやつだよね)
そう思いながらも、不思議と嫌じゃなかった。
怖いのに、逃げたいとは思わない。
むしろ――
このまま、もう少しだけ、大地の気持ちを知りたい。
そんな自分に気づいて、みいなは小さく目を閉じた。
駅までの道は、なんだかくすぐったかった。
さっきまでと同じ道なのに、足元の感覚が少し違う。
今日は一緒に改札を抜けて、同じ電車に乗り込む。
人の少ない車内で、向かい合って立つ距離も、妙に意識してしまう。
大地が降りるまで、あと一駅。
アナウンスが流れた瞬間、みいなの胸がきゅっと鳴った。
「みいな、今日はありがとな」
大地は照れたように視線を逸らしながら、続ける。
「温泉……さ、楽しみにしてるから」
その言い方が、どこか慎重で、でも確かな期待を含んでいて。
みいなは思わず、少しだけ背筋を伸ばした。
「う、うん。
こっちこそ今日は本当にどうもありがとう」
ぎこちなく返した声に、大地は小さく笑った。
「じゃあな」
「うん、おやすみ」
電車が止まり、ドアが開く。
大地は一歩外に出てから、振り返った。
ドアが閉まるまで、
そして閉まってからも――
見えなくなる、その瞬間まで。
大地は、みいなを見送り、みいなもまた、目を離さなかった。
胸の奥に残ったのは、安心とも、名残惜しさとも違う、静かで、あたたかい余韻だった。
電車が動き出しても、みいなはしばらくその場から動けなかった。
窓に映る自分の顔が、少しだけぼんやりして見える。
(……なんだろ。胸の奥が、まだあったかい)
ただ駅まで一緒に歩いて、同じ電車に乗って、普通に別れただけなのに。
それだけなのに、今日一日の出来事が、ゆっくりと胸の中で沈殿していった。
家に帰ってシャワーを浴びて、髪を乾かして、ベッドに潜り込んだのに。
天井を見上げたまま、まぶたを閉じても、今日の帰り道の場面が何度も浮かぶ。
大地の横顔。
電車の窓に流れる光。
低い声で言った、
「楽しみにしてるから」
あの言い方。
少しだけ、間を置いた声。
(……ずるい)
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「友達でいられない」
「引く気はない」
あれ、どう考えても――
ただの冗談とか、勢いとか、そういう軽い言葉じゃなかった。
(……大地、わたしのこと……)
そこまで考えて、みいなはごろんと寝返りを打つ。
嬉しい。
素直に、すごく嬉しい。
でも同時に、同じくらい怖い。
この一線を越えたら、もう前みたいには戻れないって、ちゃんと分かってるから。
スマホを枕元に置いたまま、ため息をひとつついた、そのとき。
画面が、静かに光った。
📱
「みいな、今日はおつかれ」
「明日早いのに俺……今日のことばっか考えて眠れないかも」
一瞬、呼吸が止まる。
(……え)
わたしだけじゃ、ない。
画面を見つめたまま、指先が少し震える。
ゆっくり息を吸って、文字を打つ。
📱
「うん、わたしも」
「今日疲れたはずなのに、全然眠れそうもない」
送信して、スマホを胸の上に置く。
天井は相変わらず静かで、部屋も暗いままなのに。
心臓の音だけが、やけにうるさい。
(これ……もう、戻れないやつだよね)
そう思いながらも、不思議と嫌じゃなかった。
怖いのに、逃げたいとは思わない。
むしろ――
このまま、もう少しだけ、大地の気持ちを知りたい。
そんな自分に気づいて、みいなは小さく目を閉じた。