ベッドの隣は、昨日と違う人
47話 十年分の距離





みいなは箸を止めたまま、湯のみを両手で包んだ。
湯気がふわっと立ちのぼって、少しだけ間が空く。

「……ねぇ、美咲」

「ん?」

「温泉旅行さ……」

箸を置いた美咲が、にやっと笑う。

「どんな顔して行けばいいんだろ……」

一瞬きょとんとしたあと、美咲はあっさり言った。

「へ?」

「だって……泊まりだよ?」

声を落とすと、美咲はくすっと笑った。

「んー、そうだけど。両思いじゃん?
いいじゃん、何を今さら」

「……」

沈黙するみいなに、美咲はニヤッとする。

「あー、拓也くんとはさ、会ったその日に──だったよね?」

「うう、言わないで……」

「でもさ」

美咲の表情が、少し真面目になる。

「……7年こっちで一緒でしょ?
てか、知り合って10年?」

「うん」

「で、1回も何もなかったんだよね?」

「……うん……あ」

みいなは思い出したように顔を上げた。

「そういえば、1回だけ……
大地んち、泊まったことある」

「ええ?」

美咲の声が少し大きくなる。

「なにそれ、知らない」

「美咲に会う少し前……
一緒に飲んでたら人身事故で電車止まって帰れなくて。
大地んちが徒歩圏内だったから……」

「で?」

「なんもなかった」

即答だった。

「服とベッド貸してくれて、大地はソファで。
触れるどころか近づいてもこなくて……
朝はご飯用意してくれてた」

美咲は箸を置き、深く息をついた。

「……はぁ」

「なに」

「あんたそれ、すごいことだよ。分かってた?」

「……当時は分からなかったけど。
こないだ、あぁ……って思って」

美咲は、ゆっくり頷いた。

「そうだよ。
大地くんはその頃から、みいなを大切に思ってたんだよ」

「……」

「勢いで壊していい関係じゃないって、ちゃんと分かってたんだと思う」

みいなの胸の奥が、じんわり温かくなる。

「……ね、みいな」

「うん」

「大丈夫。温泉旅行、きっと楽しいよ」



「うん……ありがとう……」

みいなは少し照れたように笑って、箸を置いた。

「お土産、買ってくるね」

「うん!」

美咲はバッグを探りながら言った。

「て、そうそう。これ、わたしからのお土産」

「え?」

「みいなにだけスペシャル♡」

「えー!嬉しい!なになに?」

「はいっ、開けてみて♡」

包みを開けた瞬間、みいなの目がぱっと明るくなる。

「わぁ……可愛いコスメ!これアイシャドー?
それにお菓子、美味しそう……」

「でしょ」

「ありがとね、美咲。
わたしのお土産も……期待してて!」

「うん、ありがと」

そう言ってから、美咲はにやりと笑った。

「でもわたしはね、
みいなと大地くんがどうなったか聞くのが一番楽しみ」

「もー……美咲ってば」

みいなは苦笑してから、少し真面目な声で言った。

「……でもさ、またなんかあったら相談乗ってくれる?」

「うん、もちろん」

美咲は即答した。

「あー、楽しみ。みいなの温泉旅行~」

美咲の方がうきうきしてるように見えた。





―――


📖第六章終了です!
お読みいただきありがとうございました。

大地からのほぼ告白を受けたみいな。
次回からはついに温泉旅行!と、その前に
次回からは4話、大地sideの独白ストーリーをお届けいたします。
ぜひお楽しみに!

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