ベッドの隣は、昨日と違う人
50話 煮物といちご大福





「あ……これ煮物な。
ひじきと、筑前煮に……切り干し大根……
タッパ、3つもあるけど」

紙袋を少し持ち上げながら、大地が照れ隠しみたいに言った。

「わぁ……すごい。
こんなの、なかなか作れないから……嬉しい」

思わず声が弾んで、袋の中を覗き込む。

「あ、あとな」

大地はもう一つ、小さな袋を差し出した。

「これ、好きか?
ほら、大塚屋のいちご大福」

「うっわー!!」

思ったより大きな声が出て、はっとして周りを見回す。
何人かと目が合って、みいなは慌てて声を落とした。

「……ごめん」

でも、口元は隠しきれない。

「大地、わたしこれ……
帰省したら必ず食べるやつ……!」

大地は一瞬きょとんとして、それから少しだけ口角を上げた。

「そうなんだ。
俺も好きでさ。4つ入ってたから、2つずつな」

「えー、いいの?
大地もそんなに好きなのに……」

「むしろ」

大地はさらっと言って、みいなの方を見た。

「そんなにみいなが好きなら、持ってきてよかったわ」

「……」

一瞬、言葉の意味を考えてしまって、返事が遅れる。

「あ、賞味期限今日までだから。今夜食えな」

「うん……」

箱を両手で持ち直してから、みいなは少し考えて言った。

「あ、じゃあさ。
ここ出たら、そこの公園で一緒に食べない?
1個ずつ」

大地は少しだけ間を置いてから、

「おお。じゃあそうすっか」

と、いつもの調子で答えた。

「あー……嬉しいなぁ」

みいながぽつりと言うと、
大地は何も言わなかったけれど。

視線が一瞬、みいなの顔に止まって、
それからゆっくり、柔らかくほどける。

責めるでもなく、探るでもなく。
ただ、静かに見ているだけの目。

みいなはそれに気づいて、なぜか少しだけ胸の奥が熱くなった。

(……そんな顔で見ないでよ)

そう思いながらも、
いちご大福の箱を抱えたまま、みいなは小さく息をついた。




スタバを出て、向かいの公園のベンチに並んで腰を下ろした。
夜の空気は少し冷たくて、街灯の光が足元をやわらかく照らしている。

「あ、ちょっと待ってて」

みいなはそう言って立ち上がり、すぐ近くの自動販売機へ向かった。
小さく屈んでボタンを押し、ホットのお茶を2本。

戻ってきて、片方を差し出す。

「これ、どっちがいい?コーヒーさっき飲んだしね」

「じゃあ……俺こっち。ありがとな」

「ううん」

短いやり取りなのに、なぜか少しだけ照れくさい。
ベンチに戻って、袋を開ける。

「じゃあ……いただきまーす」

「いただきます」

みいながいちご大福をひと口かじる。

「はむっ」

自然にこぼれた声と一緒に、表情がぱっとほどけた。

「んー、これこれ!ここのいちごとさ、餡がほんとにぴったりだと思わない?」

夢中で話しながら、口の端にうっすら白い粉がついているのにも気づかず、頬張る。
大地はそれを指摘するでもなく、少しだけ目を細めてから、自分もひと口。

「……うん、間違いないな」

ゆっくり噛みしめながら、どこか懐かしそうな顔をしている。

「あー、美味しかった。ありがとね、大地」

「ぷっ」

「え?」

「みいな、粉ついてるぞ」

「えっ……あ……」

慌てて袖で口元をこすり、ゴシゴシ。

「……取れた?」

「んー……まあ」

大地は笑いながら、軽く息を吐いた。

「なんかさ。大人になったなぁって思ってたけど」

少し間を置いて、

「……変わんねぇのな」

一瞬、みいなの動きが止まる。

「……それ、どういう意味」

「いい意味で、さ」

そう言って、大地は肘を太ももに置いて、少し前屈みになる。
真正面じゃないけど、ちゃんとみいなのほうを向いた姿勢。

街灯の光が、横顔の輪郭をやわらかく縁取っていた。

「……ほんと、楽しみだな。温泉」

不意に落とされたその一言に、胸の奥がきゅっとする。

「……うん」

みいなも、小さく息を吸ってから答える。

「わたしも……楽しみ……すごく……」

声が、ほんの少しだけ揺れた。

「俺たちらしく……楽しもうな」

「……うん」

短い返事なのに、そこに含まれた気持ちは多くて。
ベンチの上で、ふたりの間に流れる空気が、さっきよりも少しだけ近くなった気がした。






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