川島物語 ~食べ物友達と謎解きな僕~
【06 源流を知りたい】
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・【06 源流を知りたい】
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ジェンくんも学校に出てきて、いつも通りになったある日、学校の昼休みに、みんなでお弁当を食べている時、ロペスくんがこんなことを言い出した。
「日本の、食の、源流を、知りたいです」
僕はポカンとしていると、雄二がすかさず、
「江戸時代やんな」
と言ったんだけども、僕はすぐに、
「エモ時代とかさ、エモいとか最近の中学生は好きだよね」
と軽くボケてみると、ジェンくんが、
「江戸って言っていましたよ」
雄二が笑いながら、
「的確なツッコミや」
僕は一息ついてから、
「まあ江戸か平安だけども、やっぱり庶民レベルで言うと江戸かな?」
雄二は同調するように、
「そやな」
と相槌を打った。
するとロペスくんが、
「放課後に、なったら、江戸時代に、行きたいです」
と言ったので、何をそんなバカな、日光江戸村を最近検索したのかなと思っていると、ジェンくんが、
「いいですね、そうやって見識を広めることも悪くないです」
雄二は目を丸くしながら、
「日光江戸村のことをホンマの江戸時代やと思とる!」
と言ったところで、ロペスくんが、
「いや、タイムマシーンです」
僕は雄二と同じようなことを考えていたことを恥じつつ、ワープどころじゃなくて、と思いながら、
「タイムマシーンなんてあるの?」
と、周りにあんま聞こえないように、抑えた声で聞くと、ロペスくんが堂々と、
「あります。江戸時代、行けます」
僕は矢継ぎ早に、
「でもほら、過去に干渉し過ぎると未来が変わるって言うじゃん」
それに対して雄二が、
「SF過ぎやわ、というかSF質問早過ぎやわ」
僕は吹き出しながら、
「SF質問って何だよっ」
と言ったところでジェンくんが、
「その点は大丈夫です。この今の正史とは違う、パラレルワールドの江戸時代に向かうので、例え過干渉があったとしても、今のこの時代は変わりません。とは言え、オーバーテクノロジーの使用はできるだけ控えたほうがいいですが」
僕は頷きつつも、
「タイムマシーンとパラレルワールドが同時に出てくることもあるんだ」
と言うと、雄二が、
「ホンマやな。二大SFやけども同時に出てくると急に安心感になるんやな」
言い得て妙というか、確かに変な安心感はあるな。
そんな感じで、早速放課後に江戸時代へ行くことになった。いやそんなフランクに江戸時代って行ける?
ちなみに時間の進みも違うみたいで、あの宇宙空間みたいに一日は三十分とかそんな感じらしい。こっちに有利過ぎでは?
放課後になり、誰もいないところで僕たち四人は江戸時代へ一気にワープした。
本当に一気にワープして、気付いたら周りには江戸時代のような長屋が建っていて、なんといっても土の地面、アスファルトじゃない。
小川が傍に流れていて、太陽の位置的に朝日かもしれない。
周りを見渡しているその時だった。
ジェンくんが叫んだ。
「誰か倒れています!」
ジェンくんが指差す先で、大人の男性が小川の傍で倒れていて、大人なんだけども、なんとなく畠山くんに似ていた。
イチョウの木の近くで倒れているけども、ギンナンが頭に落ちて気絶……なわけないか。ギンナンそんな重くないし、葉を見る限り季節も違うっぽい。
その男性は目を閉じて、僕たちが周りで騒いでもピクリともしない。
ロペスくんが僕と雄二のほうを交互に見ながら、
「こういう時って、揺すって、いいんですか?」
すぐに雄二が、
「耳元でデカい声やな」
と言ったので、僕もそれがいいと思って、男性の耳元にしゃがみ込み、
「すみません! 大丈夫ですか!」
と声を掛けると、その男性がゆるゆると動き出して、上体を起こしたので、どうやら大丈夫のようだ。
酔っぱらって寝ていたのかなと思いつつ、後頭部を見ると、二ヵ所ケガをしているようで、頭頂部に近いほうはまるで石がぶつかったみたいに、たんこぶっぽくなっていて、首元に近いほうは髪の毛がもうハゲていて、鋭利なモノで叩きつけられたみたいな傷だった。
僕が大声で、
「二ヵ所も!」
と言うと、その男性は少し小首を傾げてから、
「首元に近いほうは元からだ。前に家で転んで打ち所が悪くてな、記憶喪失になったんだ」
僕はすかさず、
「じゃあ頭頂部に近いほうは!」
その男性はちょっと憤るような溜息をついてから、
「河童にやられたかもな」
「「「「……河童?」」」」
僕ら四人、全員ユニゾンした。
河童って、あの相撲が得意でお馴染みの妖怪の河童?
僕はおそるおそる、
「石とかじゃないんですか?」
すると男性は立ちあがりながら、
「いや河童だろう、鬼火もいたしな」
河童に鬼火に、まあ江戸時代は科学が進んでいないからそんな妄言を言うこともあるだろうけども。
男性はふらつきながらも歩き出したと思ったら、こっちを振り返って、
「まあ何だ、起こしてくれてありがとうな。こんなところでずっと寝ていたら蚊に刺されたい放題だったよ」
そう言って、どうやら帰宅したようだ。
さてさて、
「河童に鬼火って、どうだと思う?」
ロペスくんはう~んと唸ってから、
「オーバーテクノロジー、ですか?」
ジェンくんが即座に、
「まさか! 見間違いですよ!」
雄二は悩みながらも、
「でもホンマにケガしとるみたいやし、実体はありそうやな」
ロペスくんは震えあがった。
とは言え、
「鬼火ってこの時代の正体って結局、ロウソクか提灯しかないでしょ。多分そのどっちかだと思うし、ということは仕掛ける前段階があるから、そこを懐中電灯で照らせばすぐ分かるよね」
と言ったんだけども、矢継ぎ早に雄二が、
「懐中電灯はオーバーテクノロジーやろ」
と言って、そりゃそうかと納得した。
するとジェンくんが、
「というか鬼火を見るということは夜ということですよね? 夜にあの人は小川のほとりで何をしていたんでしょうか」
確かにそれもそうだ。
あの人の周りには提灯の類も落ちていなかったし、小川に来たとて明かりが無きゃあんましっかり見えないだろうし。それとも提灯は実はあって、倒れているうちに盗まれたとか?
雄二が柏手一発叩いてから、
「まあええわ、そんなことより江戸時代の食を堪能するとええわ」
当初の目的はそうだけども、やっぱりみんなの面持ちを見ていると、このことが薄っすら気になっているみたいで、とりあえず僕が感じたことなど全部洗いざらい喋ると、雄二が、
「あの人が提灯持ってなかった問題もあるわな。それはほら、あれ食べながら考えたらええんちゃう?」
と雄二が指差した先には、桶のようなモノを前後に担いで歩いている人がいた。
雄二が言う。
「よく見るやん。江戸時代モノのドラマで、ああやって豆腐売ってる人。豆腐は江戸時代からあるわけやし」
するとロペスくんが驚きながら、
「豆腐なんて! 作り込んだモノ! 江戸時代から! あるんですか!」
ジェンくんもそれに同意するように、
「本当そうですよ、豆腐ってタンパク質豊富で柔らかくて、誰でも食べられるすごい食材なのに、そんな昔からあるなんて」
そう改めて言われるとそうだよなぁ、豆腐って珍しい食材かも。海外にもあんま無いし。
雄二が、
「んでお金はあるんか?」
ロペスくんがコクンと頷いて、
「あります。すぐに出せます」
と言ったわけだけども、それって普通に技術で偽造しているんでは? と思ってしまった。
まあパラレルワールドの江戸時代だし、いいのかな、うん、いいことにしよう。
というわけで豆腐売りに近付くと、何だか甘い香りがして、この人が豆腐売りじゃなくて甘酒売りということが分かった。
でも夏に甘酒売り? あの男性、蚊とか言っていたし、気温も暑めだし、今って夏だよね。
僕は甘酒売りに、
「甘酒って冬の風物詩じゃないんですか?」
するとその甘酒売りはポカンとしてから、
「君、蝦夷出身? 蝦夷にも夏はあるだろー、面白い冗談言うねー、甘酒は健康食品だからね、夏こそ甘酒だよ」
ロペスくんはお金を出しながら、いつの間にか持っていた容器に四人分の量を入れてもらった。
容器も偽造? いや容器に偽造もアレもないけども。
それにしても健康食品を夏? 寒くてツライ日に甘酒飲んで元気になるんじゃないのか?
僕は甘酒売りへ、
「やっぱり冬よりも夏ですか」
と聞いてみると、甘酒売りはハハッと笑ってから、
「そりゃそうよー、もしかすると君、すっごい蚊のいないところに住んでる? いいなぁー、俺もそこで昼寝したいよー」
「蚊がそんなにどうしたんですか?」
「いや蚊がいたら寝れないじゃないかー、寝不足で死んだ人の話とか聞かない? 夏は暑いからどうしようもないし。冬は着こんで寝れば暖は取れるでしょー」
なんとなく分かってきた。
昔の人にとっては冬よりも夏のほうが危険な季節なんだ。
というかなんだなんだ、最近SNSで『人間はもうクーラーが無いと夏を過ごせなくて、地球はそういう環境になってしまった』とか言ってバズっていた人いたけども、昔からそうなんじゃん。
甘酒売りを質問攻めにしてもしょうがないので、この辺でバイバイすると、ジェンくんがスマホのようなモノを操作してから、こちらに画面を見せながら、
「江戸時代は七月・八月・九月に死ぬ人が一番多かったみたいです」
僕は感心しながら、
「もしかしたら昔の人は冬眠みたいなことができたのかもね」
雄二は笑いながら、
「それはさすがに極端やろ」
と言ったんだけども、僕は割とありえるような気がしている。
何故ならその逆で、冬眠しない熊というのが最近話題になっているから。
動物はそれくらいのスパンで進化したり退化したりするんじゃないかな。
受け取った甘酒はまずはロペスくんが飲んで一言、
「すごく甘いです。まるで砂糖です」
雄二が何か得意げに、
「でも砂糖は入っていないんやで。米と発酵菌で甘さを出してるんや」
ジェンくんが回し飲みして、
「こんなに甘いんだっ、ちょっとビックリ」
僕も頂いて、
「美味しー、飲む点滴って今の時代では言うけども、これで体に良いなんて最高だね!」
雄二も飲んで、
「ホンマやな。ちなみに飲む点滴って言うけど、ホンマに栄養成分が似てるからそう言うらしいで」
雄二って何気に本当に食に詳しいよなぁ、ちょっと尊敬ができるくらいに。
またロペスくんが飲んで、
「こんなに甘いと、余裕に、なってしまいます」
雄二がすかさず、
「甘い見通しってか」
と言ったところで僕はピンときて、
「もしかするとあの人が倒れていた場所って」
と声を出すと、雄二が、
「おっ、何かあの河童にやられたと自負する人のこと、分かったんか?」
僕はうんと頷いてから、
「ちょっともう一回見に行こうよ、現場を」
ロペスくんもジェンくんも雄二も同意してくれて、言ってみると案の定、大勢の男性たちがそこで小川に向かって網を撒いていた。
僕はその男性たちに、
「どじょうでも取れるんですか?」
と聞くと、その中の一人の男性が、
「おうよ、でもここは昔から橋本家の領地だから勝手に取っちゃダメだぜ」
提灯を持っていなくて甘い見通し、そして返り討ち。
僕は言ってみることにした。
「密漁されないように、例えばそうですね、石が入った網をこのイチョウの木の上に投げて設置して、その網の手元の先に紐がついていて、その紐が重りをつけて動かないロウソクの中腹と繋がっていて、夜に頃合いを見て、ロウソクに火をつけて、ロウソクが中腹まで燃えてきたら紐も一緒に燃えて、網も燃えて、網という支えが無くなった石が落ちることにより、密漁に来た人を退治する仕掛けを作ったりしているんですか? イチョウは燃えにくい木ですから、火が移る心配も無いですからね」
大勢の男性たちはギョッとした顔でこっちを見た時に、あっ、あんま大っぴらに種明かしすることは良くなかったかも、と思っていると、着ている服が一番豪華な男性が、
「それよそでは言うなよー、頭の良い坊主ー」
と言って笑った。
すると男性の一人が、
「まあ石をぶつけるまではしていないけどな、小川に石を落として物音立てているだけだよ」
僕ら四人は顔を見合わせたと同時に、僕は確かに当てることを狙うのは無理だよな、とは思った。
僕らは謎も解けたので多少なりにスッキリしながら、その場を離れると雄二が、
「じゃああの畠山に似ていたおじさんって密漁者だったんだな」
僕は頷きながら、
「そうだね、ということは密漁者に種明かしはしないほうがいいから、このまま放置だね」
と答えて、甘酒も飲めたし、そろそろ帰ろうかなと思ったその時だった。
一人の男性に僕らは話し掛けられた。
「今の話、聞いていたぞ」
・【06 源流を知りたい】
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ジェンくんも学校に出てきて、いつも通りになったある日、学校の昼休みに、みんなでお弁当を食べている時、ロペスくんがこんなことを言い出した。
「日本の、食の、源流を、知りたいです」
僕はポカンとしていると、雄二がすかさず、
「江戸時代やんな」
と言ったんだけども、僕はすぐに、
「エモ時代とかさ、エモいとか最近の中学生は好きだよね」
と軽くボケてみると、ジェンくんが、
「江戸って言っていましたよ」
雄二が笑いながら、
「的確なツッコミや」
僕は一息ついてから、
「まあ江戸か平安だけども、やっぱり庶民レベルで言うと江戸かな?」
雄二は同調するように、
「そやな」
と相槌を打った。
するとロペスくんが、
「放課後に、なったら、江戸時代に、行きたいです」
と言ったので、何をそんなバカな、日光江戸村を最近検索したのかなと思っていると、ジェンくんが、
「いいですね、そうやって見識を広めることも悪くないです」
雄二は目を丸くしながら、
「日光江戸村のことをホンマの江戸時代やと思とる!」
と言ったところで、ロペスくんが、
「いや、タイムマシーンです」
僕は雄二と同じようなことを考えていたことを恥じつつ、ワープどころじゃなくて、と思いながら、
「タイムマシーンなんてあるの?」
と、周りにあんま聞こえないように、抑えた声で聞くと、ロペスくんが堂々と、
「あります。江戸時代、行けます」
僕は矢継ぎ早に、
「でもほら、過去に干渉し過ぎると未来が変わるって言うじゃん」
それに対して雄二が、
「SF過ぎやわ、というかSF質問早過ぎやわ」
僕は吹き出しながら、
「SF質問って何だよっ」
と言ったところでジェンくんが、
「その点は大丈夫です。この今の正史とは違う、パラレルワールドの江戸時代に向かうので、例え過干渉があったとしても、今のこの時代は変わりません。とは言え、オーバーテクノロジーの使用はできるだけ控えたほうがいいですが」
僕は頷きつつも、
「タイムマシーンとパラレルワールドが同時に出てくることもあるんだ」
と言うと、雄二が、
「ホンマやな。二大SFやけども同時に出てくると急に安心感になるんやな」
言い得て妙というか、確かに変な安心感はあるな。
そんな感じで、早速放課後に江戸時代へ行くことになった。いやそんなフランクに江戸時代って行ける?
ちなみに時間の進みも違うみたいで、あの宇宙空間みたいに一日は三十分とかそんな感じらしい。こっちに有利過ぎでは?
放課後になり、誰もいないところで僕たち四人は江戸時代へ一気にワープした。
本当に一気にワープして、気付いたら周りには江戸時代のような長屋が建っていて、なんといっても土の地面、アスファルトじゃない。
小川が傍に流れていて、太陽の位置的に朝日かもしれない。
周りを見渡しているその時だった。
ジェンくんが叫んだ。
「誰か倒れています!」
ジェンくんが指差す先で、大人の男性が小川の傍で倒れていて、大人なんだけども、なんとなく畠山くんに似ていた。
イチョウの木の近くで倒れているけども、ギンナンが頭に落ちて気絶……なわけないか。ギンナンそんな重くないし、葉を見る限り季節も違うっぽい。
その男性は目を閉じて、僕たちが周りで騒いでもピクリともしない。
ロペスくんが僕と雄二のほうを交互に見ながら、
「こういう時って、揺すって、いいんですか?」
すぐに雄二が、
「耳元でデカい声やな」
と言ったので、僕もそれがいいと思って、男性の耳元にしゃがみ込み、
「すみません! 大丈夫ですか!」
と声を掛けると、その男性がゆるゆると動き出して、上体を起こしたので、どうやら大丈夫のようだ。
酔っぱらって寝ていたのかなと思いつつ、後頭部を見ると、二ヵ所ケガをしているようで、頭頂部に近いほうはまるで石がぶつかったみたいに、たんこぶっぽくなっていて、首元に近いほうは髪の毛がもうハゲていて、鋭利なモノで叩きつけられたみたいな傷だった。
僕が大声で、
「二ヵ所も!」
と言うと、その男性は少し小首を傾げてから、
「首元に近いほうは元からだ。前に家で転んで打ち所が悪くてな、記憶喪失になったんだ」
僕はすかさず、
「じゃあ頭頂部に近いほうは!」
その男性はちょっと憤るような溜息をついてから、
「河童にやられたかもな」
「「「「……河童?」」」」
僕ら四人、全員ユニゾンした。
河童って、あの相撲が得意でお馴染みの妖怪の河童?
僕はおそるおそる、
「石とかじゃないんですか?」
すると男性は立ちあがりながら、
「いや河童だろう、鬼火もいたしな」
河童に鬼火に、まあ江戸時代は科学が進んでいないからそんな妄言を言うこともあるだろうけども。
男性はふらつきながらも歩き出したと思ったら、こっちを振り返って、
「まあ何だ、起こしてくれてありがとうな。こんなところでずっと寝ていたら蚊に刺されたい放題だったよ」
そう言って、どうやら帰宅したようだ。
さてさて、
「河童に鬼火って、どうだと思う?」
ロペスくんはう~んと唸ってから、
「オーバーテクノロジー、ですか?」
ジェンくんが即座に、
「まさか! 見間違いですよ!」
雄二は悩みながらも、
「でもホンマにケガしとるみたいやし、実体はありそうやな」
ロペスくんは震えあがった。
とは言え、
「鬼火ってこの時代の正体って結局、ロウソクか提灯しかないでしょ。多分そのどっちかだと思うし、ということは仕掛ける前段階があるから、そこを懐中電灯で照らせばすぐ分かるよね」
と言ったんだけども、矢継ぎ早に雄二が、
「懐中電灯はオーバーテクノロジーやろ」
と言って、そりゃそうかと納得した。
するとジェンくんが、
「というか鬼火を見るということは夜ということですよね? 夜にあの人は小川のほとりで何をしていたんでしょうか」
確かにそれもそうだ。
あの人の周りには提灯の類も落ちていなかったし、小川に来たとて明かりが無きゃあんましっかり見えないだろうし。それとも提灯は実はあって、倒れているうちに盗まれたとか?
雄二が柏手一発叩いてから、
「まあええわ、そんなことより江戸時代の食を堪能するとええわ」
当初の目的はそうだけども、やっぱりみんなの面持ちを見ていると、このことが薄っすら気になっているみたいで、とりあえず僕が感じたことなど全部洗いざらい喋ると、雄二が、
「あの人が提灯持ってなかった問題もあるわな。それはほら、あれ食べながら考えたらええんちゃう?」
と雄二が指差した先には、桶のようなモノを前後に担いで歩いている人がいた。
雄二が言う。
「よく見るやん。江戸時代モノのドラマで、ああやって豆腐売ってる人。豆腐は江戸時代からあるわけやし」
するとロペスくんが驚きながら、
「豆腐なんて! 作り込んだモノ! 江戸時代から! あるんですか!」
ジェンくんもそれに同意するように、
「本当そうですよ、豆腐ってタンパク質豊富で柔らかくて、誰でも食べられるすごい食材なのに、そんな昔からあるなんて」
そう改めて言われるとそうだよなぁ、豆腐って珍しい食材かも。海外にもあんま無いし。
雄二が、
「んでお金はあるんか?」
ロペスくんがコクンと頷いて、
「あります。すぐに出せます」
と言ったわけだけども、それって普通に技術で偽造しているんでは? と思ってしまった。
まあパラレルワールドの江戸時代だし、いいのかな、うん、いいことにしよう。
というわけで豆腐売りに近付くと、何だか甘い香りがして、この人が豆腐売りじゃなくて甘酒売りということが分かった。
でも夏に甘酒売り? あの男性、蚊とか言っていたし、気温も暑めだし、今って夏だよね。
僕は甘酒売りに、
「甘酒って冬の風物詩じゃないんですか?」
するとその甘酒売りはポカンとしてから、
「君、蝦夷出身? 蝦夷にも夏はあるだろー、面白い冗談言うねー、甘酒は健康食品だからね、夏こそ甘酒だよ」
ロペスくんはお金を出しながら、いつの間にか持っていた容器に四人分の量を入れてもらった。
容器も偽造? いや容器に偽造もアレもないけども。
それにしても健康食品を夏? 寒くてツライ日に甘酒飲んで元気になるんじゃないのか?
僕は甘酒売りへ、
「やっぱり冬よりも夏ですか」
と聞いてみると、甘酒売りはハハッと笑ってから、
「そりゃそうよー、もしかすると君、すっごい蚊のいないところに住んでる? いいなぁー、俺もそこで昼寝したいよー」
「蚊がそんなにどうしたんですか?」
「いや蚊がいたら寝れないじゃないかー、寝不足で死んだ人の話とか聞かない? 夏は暑いからどうしようもないし。冬は着こんで寝れば暖は取れるでしょー」
なんとなく分かってきた。
昔の人にとっては冬よりも夏のほうが危険な季節なんだ。
というかなんだなんだ、最近SNSで『人間はもうクーラーが無いと夏を過ごせなくて、地球はそういう環境になってしまった』とか言ってバズっていた人いたけども、昔からそうなんじゃん。
甘酒売りを質問攻めにしてもしょうがないので、この辺でバイバイすると、ジェンくんがスマホのようなモノを操作してから、こちらに画面を見せながら、
「江戸時代は七月・八月・九月に死ぬ人が一番多かったみたいです」
僕は感心しながら、
「もしかしたら昔の人は冬眠みたいなことができたのかもね」
雄二は笑いながら、
「それはさすがに極端やろ」
と言ったんだけども、僕は割とありえるような気がしている。
何故ならその逆で、冬眠しない熊というのが最近話題になっているから。
動物はそれくらいのスパンで進化したり退化したりするんじゃないかな。
受け取った甘酒はまずはロペスくんが飲んで一言、
「すごく甘いです。まるで砂糖です」
雄二が何か得意げに、
「でも砂糖は入っていないんやで。米と発酵菌で甘さを出してるんや」
ジェンくんが回し飲みして、
「こんなに甘いんだっ、ちょっとビックリ」
僕も頂いて、
「美味しー、飲む点滴って今の時代では言うけども、これで体に良いなんて最高だね!」
雄二も飲んで、
「ホンマやな。ちなみに飲む点滴って言うけど、ホンマに栄養成分が似てるからそう言うらしいで」
雄二って何気に本当に食に詳しいよなぁ、ちょっと尊敬ができるくらいに。
またロペスくんが飲んで、
「こんなに甘いと、余裕に、なってしまいます」
雄二がすかさず、
「甘い見通しってか」
と言ったところで僕はピンときて、
「もしかするとあの人が倒れていた場所って」
と声を出すと、雄二が、
「おっ、何かあの河童にやられたと自負する人のこと、分かったんか?」
僕はうんと頷いてから、
「ちょっともう一回見に行こうよ、現場を」
ロペスくんもジェンくんも雄二も同意してくれて、言ってみると案の定、大勢の男性たちがそこで小川に向かって網を撒いていた。
僕はその男性たちに、
「どじょうでも取れるんですか?」
と聞くと、その中の一人の男性が、
「おうよ、でもここは昔から橋本家の領地だから勝手に取っちゃダメだぜ」
提灯を持っていなくて甘い見通し、そして返り討ち。
僕は言ってみることにした。
「密漁されないように、例えばそうですね、石が入った網をこのイチョウの木の上に投げて設置して、その網の手元の先に紐がついていて、その紐が重りをつけて動かないロウソクの中腹と繋がっていて、夜に頃合いを見て、ロウソクに火をつけて、ロウソクが中腹まで燃えてきたら紐も一緒に燃えて、網も燃えて、網という支えが無くなった石が落ちることにより、密漁に来た人を退治する仕掛けを作ったりしているんですか? イチョウは燃えにくい木ですから、火が移る心配も無いですからね」
大勢の男性たちはギョッとした顔でこっちを見た時に、あっ、あんま大っぴらに種明かしすることは良くなかったかも、と思っていると、着ている服が一番豪華な男性が、
「それよそでは言うなよー、頭の良い坊主ー」
と言って笑った。
すると男性の一人が、
「まあ石をぶつけるまではしていないけどな、小川に石を落として物音立てているだけだよ」
僕ら四人は顔を見合わせたと同時に、僕は確かに当てることを狙うのは無理だよな、とは思った。
僕らは謎も解けたので多少なりにスッキリしながら、その場を離れると雄二が、
「じゃああの畠山に似ていたおじさんって密漁者だったんだな」
僕は頷きながら、
「そうだね、ということは密漁者に種明かしはしないほうがいいから、このまま放置だね」
と答えて、甘酒も飲めたし、そろそろ帰ろうかなと思ったその時だった。
一人の男性に僕らは話し掛けられた。
「今の話、聞いていたぞ」