川島物語 ~食べ物友達と謎解きな僕~

【07 謎の声】


・【07 謎の声】


 僕らはその声がする方向を振り返ると、いわゆる岡っ引きのような恰好をしている男性が一人立っていた。あの密漁畠山似とは違う。
 その岡っ引きだと思われる男性は、
「いやな、鬼火騒動が最近あって謎を解きたかったんだが、そういう事情があったのなら仕方あるまい。俺も同心には口を出さないことにしようと思っている」
 同心……ってのが確か江戸時代の警察官で、この岡っ引きというのが警察官と共に仕事をする民間の助っ人、だったよな、確か。祖父母と時代劇見ていた時、そんな説明された。
 岡っ引きは続ける。
「アイツが密漁者だったということは本当に良くないが、まあ記憶喪失の件もあるし、とりあえずは目を瞑ってやるわけだが」
 そのタイミングで雄二が口を挟んだ。
「密漁者があの後頭部ケガでハゲとった人と知っとるんや」
 岡っ引きは「そうそう」と言ってから、
「早朝から、ずっと倒れていたからな」
 雄二が即座に、
「声掛けなかったん?」
 岡っ引きは「いやー」と言ってから、
「掛けたけども起きなかったんだ、でも心臓は動いている様子だったし、まあいつか起きるだろってさ」
 江戸時代ならではのおおらかさなのか、この岡っ引き特有なのか、まあいいや、
「雄二、話の腰折ってる。目を瞑ってやるわけだが、の続きお願いします」
 雄二は少し申し訳無さそうな顔をし、岡っ引きは堂々と、
「そう、それなんだ、その記憶喪失の件が何か怪しくてな、独自で調べているんだが、君の観察眼と謎解きには恐れ入った、是非知恵を貸してほしい」
 まあまだまだ時間もありそうだし、僕は、
「勿論いいですよ」
 と答えると岡っ引きは説明をし始めた。
 あの男の後頭部のケガから察するに、包丁なんだろうけども決して鋭すぎない、要は刃こぼれしているような包丁で叩き切られるように打ったケガだと思われるのだが、ソイツの家庭には包丁の類が一切無かった、と。
 そもそもそれが怪しくて、包丁の無い家庭なんて普通は無い、という話だった。
 すると雄二がまた割って入り、
「家庭ということは同居人がおるということやな?」
 岡っ引きは雄二を指差しながら、
「その通り! 嫁が一人いる! 二人暮らしだったらしい! だからおれはソイツが怪しいと思うんだが、凶器が分からないんだっ。包丁の無い家庭も意味分かんないし」
 するとジェンくんが、
「元々は包丁のある家庭だったんじゃないんですか? だって被害男性が記憶喪失なら、包丁捨てて、無いことにしてもバレないじゃないですか」
 岡っ引きは唸るように「だろうぉっ?」と言ってから、
「でも本当に包丁の無い家庭みたいで、周りの長屋の連中はちょっと小ばかにすらしていたみたいだ。包丁無いから葉物野菜ばっか買ってちぎって汁物作ってるって」
 ジェンくんはシュンとしながら、
「じゃあ違いますね……周りに証人がいるのなら……」
 包丁が無い家庭というのは本当に意味が分からないし、そんな家庭で刃こぼれした包丁で殴ったような跡。
 すると雄二が、
「先が四角形というか、そういう木材みたいなもんで叩いたんちゃう?」
 岡っ引きは首を横に振って、
「そういう怪しそうな木材は無かったし、入念に調べたは調べたよ。削り機の角とかも念入りに調べたよ」
 すると僕はピンときて、こう聞くことにした。
「木材じゃなくて食材はありませんでしたか?」
 岡っ引きは小首を傾げながら、
「食材? いや何か大量の汁物はあったけども、汁は熱いだけだよ」
 雄二は「あ!」と声をあげてから、
「この時代の火は木材や枝やろ! 凶器となった木材を燃やして処分したんちゃうんっ?」
 岡っ引きは残念そうに、
「いや汁物は熱いと言って申し訳無い。実際は冷めた汁物しかなくて、炭になった木材とかもなかったよ」
 雄二は『でも』って感じに、
「別のとこで燃やしたとか! 川に捨ててもありやし!」
 岡っ引きはうんうん頷いてから、
「確かに証拠隠滅の方法はいろいろあるけども、そんな時間は無かったみたいなんだ。長屋のヤツが音を聞いていたらしいんだが、大きな物音を聞いてからちょっとの間で嫁がその音を聞いた長屋のヤツに助けを求めたらしい」
 ロペスくんは溜息交じりに、
「では違いますね。犯人は助けを、求めません」
 ジェンくんが僕を見ながら、
「いやいやみんな、ちょっと待ってください。さっき圭吾くんは”食材”と言いましたよね、食べ物で殴ったということ?」
 すると岡っ引きは吹き出してから、
「鋭い食べ物なんてないよ!」
 いやでも、
「鰹節ならどうですか? 鋭さを出せば包丁という線が浮かび、でもそれはのちに調べれば無いとなる。さらに鋭ければ短時間で削りつくして汁物に入れてしまうことも可能でしょう」
 岡っ引きも他の三人も目を丸くした。
 僕は続ける。
「で、もしかしたらその男性って元々粗暴だったんじゃないんですか。嫁さんにDV……じゃなくて、手を出していたこともあったのかもしれないですよね、だからこそ一発で殺されるような包丁を元々家に置いていなかった、とか」
 岡っ引きの声は小さくなり、呟くように、
「確かに……記憶喪失前は粗暴だったとは長屋の連中から聞いていた……だから最初はまた嫁が殴られたんだと思ったって証言していた……」
 僕はハッキリと言う。
「つまり、この事件も解決しなくていいんです。変につついて記憶が戻るよりもこのままのほうがいいです。今は嫁さんが殴られることもないんでしょう?」
 岡っ引きは声を震わせながら、
「そ、それは本当にそうらしい……」
 僕は大きく頷いてから、
「そういうことですね」
 と会釈すると、岡っ引きも頭をさげてから「解決ありがとう。これも目を瞑るべきだな」と言った。
 僕ら四人は現世に戻ってきて、戻って来るなりロペスくんが、
「鰹節って何か、鈍器状、なんですか?」
 すると僕よりも先に雄二が、
「そうやねん。鰹節って専用の削り機で削って薄いパラパラにすんねん」
 雄二って本当食のことは自分で言いたいんだな、と思った。
 よく分かんないけども、多分違うけども、鍋奉行だな、と思った。
 とは言え、このニセ鍋奉行にはいつも感謝している。
 この精神鍋奉行は本当に食べ物に詳しいので、ロペスくんとジェンくんはしっかり見識を広めている。
 僕も料理の勉強とかしようかなとちょっと思っている。
 食は魅力的だから。
 どんどん食(しょく)ってこう……という気持ちの悪いキャッチコピーが浮かんだのでこれは即座に埋めることにして、それはそうと、真面目に食に対して向き合っていきたいとは思っている。それが生きるということでもあると思うから。
 それにしても江戸時代の畠山くん(畠山似)、もっと人と対話するべきなんじゃないかなと思った。DVとか密漁とか、そういうことじゃなくて。
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