君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 資産家の生まれでもない。父はしがないサラリーマン。晴菜が今背負っているのは、自分一人の生活と、日常を回すための体力だけだ。
 晴菜は小さく息を吐き、顔を上げた。
 その瞬間、少し先の交差点の手前の人影が視界を掠めた。背の高い男が電柱に凭れて夜空を見上げている。

 ――嘘。

 見間違えるはずがなかった。それでも、思わぬ光景に呼吸が一拍遅れた。
 どこか疲労を隠しきれない佇まい。スーツの上着を腕にかけネクタイを緩めたままの横顔は、いつもより固いもののように思えた。
 なぜ、ここにいるのか。どうして連絡をくれなかったのか。
 問いかける言葉はいくつも浮かんだのに、晴菜はそれを口にできなかった。

 ――この人……限界だ。

 どこか力の抜けない立ち姿――酒を扱う仕事をしているからこそ、嫌というほど見てきた『追い詰められた時』の顔を、彼がしていたから。

「……そ、……うた」

 声に出した瞬間、男が顔を上げた。そして一瞬、言葉を失ったように瞬きをした。
 それから、ひどくゆっくりと息を吐き出した。ふっと、奏汰の表情が緩む。

「名前」
「……え?」
「あんた、今……初めて俺の名前呼んだ」
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