君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 彼女のその言葉の端々に、用心深い距離感が滲んでいる。奏汰との縁談を受けたくないと言っていた彼女。けれど縁談に前向きな祖父が同席している以上、ここで自分との接触を特別なものとして悟られるわけにはいかない。雑談に偽装する最小限の意思疎通を取ってほしいのだ、と、晴菜は彼女の思惑を朧気に察した。
 視線のみで隣を確認すると、松本は少し離れた位置でシャンパンを注いでいる。こちらに注意を向ける様子はない。仕事として成立する距離と構図だった。
 晴菜はバーテンダーとしての仮面を被り直しながら、ゆっくりと顔を上げた。表情を整え、声の高さをいつもの位置に戻す。

「……かしこまりました」

 晴菜は震えそうになる指先に意識を集中させ、グラスを手に取る。氷を掴む指先にわずかな震えが走ったものの、なんとかそれを抑え込みグラスへ滑り込ませた。カランとした乾いた音が、動揺を覆い隠してくれた。

「彼とは、幼馴染みたいなものなの。といっても冠婚葬祭で顔を合わせるくらいだけれど」

 穂乃果は、周囲からはカクテルの出来上がりを待つ優雅な客にしか見えない所作で大理石のカウンターにそっと指先を添えた。
 白魚のような細い指先に、淡い藤色のグラデーションネイルが映えている。
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