君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 それだけ言い残すと、穂乃果は何事もなかったかのようにグラスを取り、客の流れへと溶け込んでいった。
 穂乃果が去った後の静まり返ったカウンター内で、晴菜はただただ立ち尽くす。
 彼女の決意は、本来なら晴菜にとって福音であり、救いのはずだった。けれど、晴菜の胸を占めていたのは、皮肉にも目を逸らしたくなるほどの鈍い痛みだった。

 ――私に……戦う資格なんてあるの?

 穂乃果が放つ、あの気高く、恐ろしいほどの覚悟。その姿が、今の晴菜にとっては眩しすぎた。
 自分の想い人を守るために、親と対峙し、場を整え、矢面に立つ覚悟を持った穂乃果。
 麗奈に蔑まれ、揺れ、迷い、ただ立ち尽くし、ひとりでいる時は不安に揺れているだけの自分。
 結局――奏汰の隣に立ち、彼と対等に言葉を交わせるのは、穂乃果のような『戦える強さ』を持った女性ではないのか。
 家格、資本、政治的価値があるからふさわしい、ではなく。
 覚悟の重さが――あまりにも違いすぎる。

「……私」

 磨き上げられたグラスに映る自分の顔が――ひどく頼りなく、場違いなものに見えた。

「すみません、芋をひとつ」
「あ……かしこまりました」

 不意に、年配の男性に声をかけられる。
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