君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 彼は「氷室酒造」という大きな看板を背負って生きる人間だ。バーテンダーとして夜の街で生きる自分とは、住む世界が違う。奏汰は副社長という立場で、家のことも、蔵のことも、全部に責任がある。晴菜があのまま彼のそばにいれば、彼の貴重な時間を奪って、足を引っ張って、最後には重荷になる。
 だから先に手を離しただけだ。正しい選択だったはずなのに、胸の奥で何かが壊れていく気がする。

 ――もう……考えるの、疲れちゃったな……

 奏汰と並んで立つ覚悟もないくせに、自分から手を離したくせに。失ったあとでこうして一人きりで泣く。情けなくて、惨めで、でも――それでも、戻りたいなんて言える立場ではない。
 もともと縁がなかっただけ。ただ、それだけだ。
 だというのに――スマホが鳴らないことに、心が少しずつ削られていく。期待してはいけないと分かっているのに、無意識にスマホを手に取ってディスプレイを確かめてしまう自分が嫌だった。

「……水飲んで、頭冷やそ……」

 晴菜は大きくため息をついて、ゆっくりと立ち上がる。キッチンに向かい、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのボトルに手を伸ばした。
< 125 / 141 >

この作品をシェア

pagetop