君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 戻りたい、なんて思う資格はない。自分で突き放したくせに相手から何の反応もないことに絶望しているのだから、本当に救いようがない。
 彼に溺れていた感情を捨てたつもりで、それでもまだ胸にへばりついている。呼吸のたびに、捨てたはずの心が疼く。
 晴菜は乾いた笑いをひとつ落としながら、ボトルのキャップを開けた。
 その瞬間――不意に、鎌倉のバーの景色が脳裏に蘇った。

『誰だって、弱い夜には度数の高い酒を選ぶ。酔うためじゃなく、鈍くしたいだけのときに』

 薄暗いカウンターで、氷の溶ける音だけがやけに大きく聞こえていた夜。シングルモルトは強い酒のはずなのに、喉を焼く感覚より肩の力が抜けていく方が早かった。
 隣にいた奏汰は、深く踏み込まず、けれど確実に寄り添ってくれていた。
 その光景を思い出した瞬間、胸が詰まり、ボトルを握る手が震えた。鼻の奥がつんとして、視界がじわりと滲む。
 ぽたり、と水滴が落ちて、晴菜は堪えきれず顔を伏せた。

「ばかみたい……」

 康介の時とは違う。振られた側ではなく、自分で別れを切り出したくせに。こんなにも追いすがる理由も、被害者ぶる資格もないのに、涙だけが勝手に溢れてくる。
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