君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
『開けろ』

 晴菜が声を上げるより早く、奏汰が口を開いた。モニター越しのその声は低く、抑えられていた。
 仕立てのいいスーツは心なしかシワが寄り、いつも完璧に整えられている髪も少し乱れている。
 理性では分かっている。この声に応えれば、終わりだと。

「帰って。もう……会えないって、送ったはずよ」

 絞り出した声は、まるで縋るように震えていた。

『会えないっつうなら、なんで泣いてる』
「……泣いてない」

 反射的に否定してから、自分の声が掠れていることに気づく。
 モニター越しの奏汰は、こちらを真っ直ぐ見ていた。そうして、ゆっくりと息を吸うような仕草を見せた。ほんの一瞬の沈黙、それがやけに長く感じられた。

『晴菜。開けろ。話してないだろ』
「……私は、もう」
『俺は、了承してねぇ。終わらせるなら、お互いに顔を見てからだ』

 奏汰は幼子に噛んで含めるように、一つ一つの言葉をはっきりと紡いでいく。眉根を寄せた険しい表情とは裏腹な冷静な言葉に、抑え込んだ感情が滲んでいた。

 ――だめ……

 頭では拒んでいるのに、心は拒みきれていない。オートロック一つが、まるで最後の防波堤のようだった。
 目の奥が、焼けるように熱い。
< 129 / 141 >

この作品をシェア

pagetop