君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 彼の言葉に、晴菜は目眩を覚える。今日の自分は、すべてを忘れたい、どうにでもなれ、という破滅的な気持ちで、この場所に来たのだ。それを見透かされたような気がした。

「……」

 晴菜はじっと隣の男を見返す。彼のその鋭い視線は――晴菜の胸の奥にある深い翳りを確かに見抜いていた。

「……その主義、よく発動するんですか?」

 声が震えているのを悟られないよう、晴菜は努めて冷静に問い返した。切れ長の黒い瞳は、どこか挑むように晴菜を見つめている。

「滅多に。今夜だけ例外」

 挑発的な言葉と、熱を帯びた視線。男は静かに、けれども有無を言わせぬ力強さで、晴菜の選択肢を奪いにきている。晴菜は本能的に彼の危うさを感じた。
 それでも――康介の裏切りで空っぽになった心と、どうしようもない自己嫌悪が、その危うくも熱い誘いに激しく惹かれていた。

「じゃあ……その例外に、乗ってみようかな」

 グラスの向こうで、男の口元が微かに弧を描く。それは、獲物を捉えた獣のような、それでいてひどく魅力的な笑みだった。

「決まりだな」

 理性は、とうに東京のカフェの片隅に置き去りにしてきた。
 ほんの一瞬でも、康介のことを忘れられるなら。
 彼の裏切りで深く抉られた心を麻痺させられるなら――それでよかった。
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