君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 昨夜は結局、名前を尋ねるタイミングを逸した。なにもかも、知らないままだ。知っているのは、晴菜と同じ業界の人間、ということだけ。
 身体の最奥に残る微かな火照りが、現実の冷たさを強調する。優しいわけでも、紳士なわけでもない。ただ熱をぶつけられただけの夜なのに、こうしてじんわり残っているのがひどく悔しい。晴菜は後悔で胸が締め付けられるような痛みを感じながら、ゆっくりと身体を起こした。
 ベッドの足元には晴菜が身に着けていたワンピースと彼のワイシャツが重なるように落ちている。そのわきには、晴菜が泊まるはずだった部屋のカードキーが朝日を浴びてきらめいていた。
 その光景が――昨夜の出来事を、静かに、けれども確かに証明しているようだった。

 ――やって……しまった。

 自分が信じられなかった。今まで恋人と破局してもここまで自暴自棄になることなんて一度もなかったのに。
 後悔が胸の奥でじわりと広がる。襲い来る数多の感情を処理しきれず大きなため息を吐くと、彼がゆっくりと寝返りを打った。
 男の人にしては長い睫毛が震え、唇の端がかすかに上がる。

「……」

 静かな空間に沈黙が落ちる。彼の寝息は穏やかで、規則的だ。
 けれど、晴菜にはわかっていた。彼の今の仕草は、ほんの少しだけ演技めいている。目を閉じているのに、気配が張りつめているから。

 ――これ……絶対起きてる。

 呼吸のリズムが完璧すぎる。たぬき寝入り――そう気づいてしまう自分が、少しだけ嫌だった。名前も知らないのに、息の速さや肩の動きで彼の嘘を見抜ける。職業病みたいな観察眼が、こんな時ばかり邪魔をする。
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