君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 ロビーに足を運び、チェックアウトを済ませる。晴菜は駅へと向かう道を歩きながら、ハンドバッグからスマートフォンを取り出した。

「……」
 
 メッセージアプリを起動させ、康介の連絡先を開いた。ピン留めしてある康介とのトーク履歴は、あのドタキャンの一文で止まったままだった。
 晴菜は迷わず康介の連絡先を削除した。軽い音がして、画面から彼の名前が消える。それだけで、胸のつかえが少しだけ軽くなった気がした。
 駅のホームに立つと、潮風がまだ少し残る空気が頬を撫でた。斜め前の電光掲示板によると、あと五分で東京方面の電車が到着するらしい。

 ――彼……今頃どうしてるんだろう。

 ホテルで朝食でも食べているのだろうか。あのスーツに袖を通して、また仕事に出るのだろうか。
 そこまで考えて、晴菜はハッと我に返る。
 
 ――名前も知らない人のことを、どうしてこんなに思い出してるんだろう。

 自嘲気味に吐息を落としながら、ゆっくりと瞼を閉じる。
 このまま東京に戻って、また日常のルーティンに戻れるのだろうか。答えは、はっきりとノーだった。

 ――救いにもならない夜を……自分で選んだだけなのに。

 日常に戻りたくない。けれど、戻らなければ何も始まらない。そんな矛盾が心の底に沈んでいく。
 胸の奥が空っぽだ。泣くほどの痛みもなく、ただ虚無だけが静かに居座っている。
 ふと、視線を落とす。手に持ったままのスマホが目に入り、ゆっくりとそれを持ち上げた。
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