君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 ホームの風がまた吹き抜ける。潮の匂いが、昨夜の残り香をすべてさらっていくようだった。
 知らない男に抱かれた夜の後に、知らない男との縁談。

 ――どうせなら……もう少しまともな選択をしてみる?

 それもひとつの案かもしれない。これから先も、昨夜みたいなワンナイトを重ねるよりは、身元がはっきりしている人間に会って縁が繋がる方がよっぽど健全だ。
 あの時は、康介と付き合っていたつもりだったから、断るつもりだった。
 けれど――今なら。もう、フリーになった今なら。

「その……お見合いの話。進めてもらっていいかな」

 誰かと会えば、少しは気持ちも前向きになるような気がした。
 けれど、それは前に進むためというより、立ち止まってしまった自分をごまかすための動きに近い。
 電話口の華子の声が一気に弾んだ。

『まぁ、ほんまに? よかったわぁ晴菜ちゃん! 彼ね、ほんまに素敵な子やの。来週には日ぃ決めて連絡するし、楽しみにしといてや』
「ありがとう、叔母さん。無理のない範囲でお願い」
『任しといて。ほな、また』
 
 華子のその言葉に、晴菜は曖昧に笑って「うん」とだけ答えた。
 通話を切った晴菜はもう一度スマホを見つめ、画面を伏せる。
 昨夜のことも、康介のことも、きっといつか、全部終わったことにできる。今はただ、そう思いたいだけかもしれない。
 前を向く。ただそれだけなのに、それはこんなにも苦しかっただろうか。慰めの夜を経ても、心は少しも埋まらなかった。

「はぁ……」

 何度目かの大きなため息とともに、晴菜はゆっくりと空を仰いだ。
 雲の切れ間から差す光が、晴菜の瞳を静かに焼いた。
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