君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 視線を上げれば、奏汰がまっすぐこちらを見ている。まるで晴菜の一挙手一投足を逃すつもりのないような眼差しで。
 晴菜は湯気の立つ椀に視線を落とし、そっと息を整えた。
 食事は見た目こそ和やかに進んだ。季節の料理に華子が感嘆の声を上げ、隆之も丁寧に応じる。だが晴菜は、向かいの奏汰がふと箸を置くたびに胸がざわめき、味がほとんど入ってこなかった。
 やがて最後のお茶が運ばれ、湯気がほっと広がる。ひと口含んだところで、華子が意味ありげに立ち上がった。

「ほな、あとは若い二人でごゆっくり」

 隆之も穏やかに頷き、二人は自然な流れで席を外す。晴菜は息を詰め、俯いた。
 どうして――よりによって彼なのか。
 神様の悪戯だと思うには、あまりにも残酷だ。どこか逃げるように受けたお見合いで、逃げ場のない再会を突きつけられるなんて、あんまりではないか。
 軽い音を立て、入り口の扉が閉められた。わずかばかりの沈黙が落ちたのち、目の前の奏汰がふっと小さく笑った。

「……久しぶりだな、晴菜」
 
 よく通るバリトンの声が、晴菜の耳朶を打った。
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