君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 振り絞るように尋ねた声は、震えを隠しきれない。膝の上で固く握りしめた指の感覚が麻痺しそうだった。薄緑の振袖の袖が、ほんのわずかに揺れた気がした。

「言ったら逃げたろ。あの夜のあんた、壊れた顔してたからな」

 淡々と告げる声なのに、それはひどく優しい。晴菜は瞬きを忘れ、ただ彼を見つめ返すことしかできなかった。

「酔ってるくせに、無理に笑って。傷跡をごまかすみたいに強い酒を飲んで。あんな状態の女に『おれが見合い相手だ』なんて言ったら、逃げられるに決まってるだろ?」

 あの夜の自分のすべてが、見ず知らずの他人にそこまで見透かされていたという事実。
 その相手が目の前の奏汰であったという、あまりにも皮肉な巡り合わせ。

「全部……見透かして、何を面白がっていたの」

 喉が詰まり、吐き出した声が掠れる。責めるような響きになってしまったが、止めることはできなかった。頬が熱を持ち、悔しさと恥ずかしさが同時に押し寄せてくる。
 奏汰は心底愉し気に整った眉を跳ね上げた。

「『自分で選ばせたかった』だけさ。あの状態のあんたから奪うのは、ちょっと違うと思っただけだ」
「……選ぶ、って……」
「俺を、だよ」

 晴菜の心臓が、一拍遅れて大きく跳ねた。冷静になりたいのに、相反するように呼吸が浅くなる。反論しようとしても、ひとつも言葉にならない。思考はどう整理していいのかもわからずぐちゃぐちゃだ。
 その沈黙を、奏汰はまた都合よく肯定だと受け取った。
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