君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 もっと若いころだったら、彼の夢や生き方に自分も合わせていけるかもしれないと思えただろう。けれど、三十路が目前に迫る今、康介と共に歩む未来が見えないことに焦りを感じているのも、紛れもない事実だった。
 不意に、テーブルの上のスマホが振動した。きっと叔母が写真を送ってきてくれたのだろう。気は進まないが、写真を見ても乗り気になれないと返事をすれば、叔母も諦めてくれるだろうか。
 そう考えた晴菜がスマホに手を伸ばそうとしたその瞬間、店の外を通り過ぎる二人組が目に入った。

 ――康……介?

 彼の隣には、見覚えのない女性。いや、メイクが薄いだけで、見覚えはあるような気がする。康介のバンドの、キーボーディスト。
 彼女は左手の甲を嬉しそうに眺め、康介はそんな彼女の肩を抱き寄せて笑っていた。陽の光を受けた、約束された幸福を思わせる淡い青のジュエリーショップの紙袋が、きらりと輝いた。

 ガラス越しに、康介と目が――合った。視線が、確かに絡み合った。

 康介は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、そのままふいと視線を逸らした。その瞬間、晴菜の耳から世界の音が遠のいた。
 康介の笑顔が、女性の楽しげな仕草が、スローモーションのように脳裏に焼き付いた。心臓が早鐘を打ち、胸の奥で何かが砕ける音がした。

「――っ!」

 晴菜は無意識に椅子を乱暴に引き、テーブルの上のアイスラテをそのままに店を飛び出した。
 初夏のぬるい風が頬を打つ。雑踏の中を、どこへ向かうともなく歩き続ける。
 康介の笑顔が、女性の手元で光る何かが、頭の中でぐるぐると繰り返される。

 晴菜はその日、夜通しスマホを握りしめたまま、通知を待った。
 けれど、康介からの連絡は――それきり、一度もなかった。
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