君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 街の灯が流れていく。対向車の白い光が一瞬奏汰の横顔を切り取るたび、その落ち着いた静かな表情が、妙に胸をざわつかせる。

「行き先、聞かないんだな」
「聞いてもどうせ教えてくれないでしょ」
「察しがいいな」

 晴菜が即答すると、奏汰は小さく笑った。それきり会話は途切れ、ウインカーの音だけが一定の間隔で流れる。
 窓の外を流れる景色が、ビル群から住宅街、そして街灯のまばらなバイパスへと移り変わっていく。ネオンが減り、街灯の色が柔らかくなったところで、車は閑静な住宅街の一角で速度を落とした。
 促されるままに車を降り、あの夜と同じように奏汰の背中を追って歩みを進める。

 ――高そう……

 主張しすぎない外観に、控えめな行燈。重厚な木戸には、達筆な文字で屋号が記されている暖簾が客を選ぶように静かに揺れていた。
 奏汰が迷いなく暖簾をくぐる。晴菜は一瞬だけ息を呑み、覚悟を決めて後に続いた。
 店内は白木のカウンターがまっすぐに伸び、磨き込まれた檜の香りがほのかに漂っている。
 カウンターの内側にはガラスケースの中に整然と並ぶ魚と、包丁だけが置かれている。晴菜はようやく決定的な違和感に気づいた。
 
 ――回って……ない……!
 
 晴菜の動揺をよそに、奏汰はカウンターの向こうに立つすらりとした大将に軽く会釈をしていく。

「氷室さん、ご無沙汰しております。先日卸してもらったお酒、とても好評でした。いつもお力添えありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。今日は客としてですので、気を遣わずにお願いします」
 
 奏汰がそう言うと、大将は一瞬だけ晴菜に視線を向け、にこやかに頷いた。
 
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