君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
「やっぱり晴菜を連れてきて正解だった。最近は分かりやすい甘口とか、数字が取れやすい酒ばかり売れる。でもそれだけだと長く残らない。日常に入り込む酒を作りたかった」
 
 そう口にした奏汰は切れ長の目元を緩ませ、ゆっくりと徳利を手に取り自分のお猪口に酒を注いでいく。
 その表情が、いつもの強引な態度の時とはわずかに違う気がした。彼と視線が絡んだ瞬間、空気が変わる。
 互いの仕事の延長線上にある話をしていた――そのはずなのに。
 
 ――ずる……い。

 頼られて、認められて。そこにそんな目まで向けられて――胸の奥を正確に捉えられる感覚がして、息の仕方を忘れてしまいそうだ。
 その時、カタリと音を立て、個室の戸が開かれた。晴菜がぴくりと肩を震わせると、大将が静かな所作で一皿目を運んでくる。
 目の前に置かれたのは、透き通るような白身の鮨だった。包丁の入れ方が繊細で、光を柔らかく反射している。

「雑味を削ぎ落として、料理の味を邪魔しないようにも設計したつもりだ。酒が料理を殺さず、逆に料理も酒を殺さない。互いの長所を補い合う、そんな設計。ほら、食べてみろ」

 奏汰に促されるまま、晴菜は箸を取った。白身をそっと口に運ぶと、舌の上でほろりとほどけ、遅れて上品な旨みが広がる。反射的に酒を含むと、先ほどまで主張していた甘みが一歩引き、鮨の余韻をなぞるように消えていった。

「美味しい……」
「声、素直すぎ」

 不意に、目の前の奏汰から不満げな声が飛んできた。彼の意図がわからず、晴菜は思わず目を丸くした。
 
「へ?」
「飲んだだけでそんな蕩けた声出すなよ。俺以外に聞かれんだろ」
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