君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 晴菜の両親には引き合わせたが、康介の両親には「まだ早い」の一点張りで会わせてもらえなかった。あの時は、彼が真剣だからこその配慮だと思っていた。
 きっと、晴菜の方が『浮気相手』だったのだろう。いや、浮気相手でもなく、ただの『金づる』だったのかもしれない。これが真実のような気がした。
 本命の彼女がいるからこそ――デートに行ってもいつだって「金がない」と言われ、安い居酒屋やファストフードで済まされた。それらは本命の彼女に高価な指輪を準備するために、晴菜には金を使いたくなかったからなのではないだろうか。
 彼の成功を信じて何度も食事を奢り、様々な場面で貢いできた自分の愚かさに喉の奥がヒリヒリと痛んだ。
 
 ――ほんと……バカみたい……
 
 突如として降りかかった現実に吐き気がした。数日経っても、康介からは何もない。何の連絡も、弁解も、謝罪も。
 彼の音楽に対する熱意と才能を愛していたはずなのに、あの女性と笑う彼の姿は、晴菜の心から愛の残滓を根こそぎ奪い去っていった。残ったのは、空っぽの胸と、ひどい自己嫌悪だけ。
 
「……きれい」
 
 鎌倉の海は、思っていたよりも静かだった。湿気はまだ少ないものの、空気は熱を帯び始めていた。寄せては返す波の音が、心の奥のざわめきを洗い流すように優しく響く。
 どこか現実感のないまま、晴菜は砂浜に腰を下ろした。膝を抱え、遠い水平線を眺める。
 すぐ目の前まで優しく打ち寄せる波が、乾いた砂を濡らし、また引いていく。その単調な繰り返しが、今の晴菜には心地よかった。
 
「お兄ちゃん待って~!」
「待たないよ、こっちー!」
 
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