君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 やがて短く息を吐いたのち、彼はゆっくりと顔を上げた。畳の上を這うように長い指が伸び、晴菜の指先に触れる。絡めるほどではない、けれど確かに逃がさない距離だった。

「……あんたは、やっぱりずるいな」
「えっ……?」
「あんたは……俺が一番欲しい言葉を、一番欲しいタイミングで投げてくる」

 奏汰の口元は僅かに緩んでいた。その言葉に、晴菜の胸が小さく跳ねる。

 ――卑怯だ。

 いつもは強引に振り回してばかりのくせに、時折、触れたら火傷しそうなほどの熱量と純粋さを交じらせて接してくる。
 これ以上踏み込めば、もう元の場所には戻れない。
 けれど、晴菜の心の天秤は、もう均衡を保てなくなっていた。胸の奥が、じわりと疼いた。
 息を詰めたその刹那、障子の外から何かが近づいてくる気配がした。畳に落ちた静けさを破るように、廊下を進む規則正しい足音が響く。

「入るわよ」

 凛とした、けれどどこか険呑な響きを孕んだ女性の声が障子越しに響く。と同時に断りもなく障子が開かれ、和服姿の女性が姿を現した。
 年は五十代前半だろうか。一目で仕立ての良さが分かる紫色の着物を身に纏っている。髪は一筋の乱れもなく隙なく結い上げ、切れ長の瞳には他者を寄せ付けない冷徹さが滲んでいた。

「……麗奈(れいな)さん。どうしてここに」
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