君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 廊下に出た瞬間、張りつめていた空気がふっと緩んだ。それでも晴菜の胸に残った感覚は、軽くはならなかった。
 畳の軋む音も、扇子の乾いた響きも、もう聞こえない。けれど麗奈の言葉だけが、まだ耳の奥で反響している。

 ――同じ土俵に、立てる家……

 奏汰は無言のまま、晴菜の手を引いて歩いている。その大きくしなやかな背中はまっすぐで、迷いがない。だからこそ、余計に胸が痛んだ。
 足早に母屋を出ると、西日が晴菜と奏汰を照らした。昼間の刺すような日差しは少しだけ和らぎだしているが、じっとりとした暑さはあまり変わっていなかった。二人はそのまま、蔵の来客用スペースに停めていた車へ乗り込んだ。
 奏汰は乱暴な手つきでエンジンをかけ、車を出していく。タイヤが砂利を踏みしめる音が響き、車は滑るようにして高坂醸造の敷地を出る。

「ごめん……なさい」

 思わず零れた声は、車の走行音に紛れて消えそうなほど小さかった。けれど奏汰はしっかりと聞き取ったらしい。
 ハンドルを握る手に一瞬だけ力がこもる。

「何が」

 低く落とされた言葉は、責める響きではなかった。晴菜を宥めるような、それでいて荒ぶる感情を抑えた声音だった。

「……その……」

 晴菜はいたたまれなくなり、車窓に視線を移しながら言葉を探す。
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