君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 対立させた。揉めさせた。そんな言葉が喉につかえて、上手く出てこない。

「親戚の人と……あんな風に、ぶつからせて」

 晴菜はそれ以上、言葉を紡ぐことができなかった。
 時東グループという大きな名前。政略結婚という、自分の生きる世界とはかけ離れた現実。
 そして――麗奈が放った『ただお酒を注ぐだけの女』という刃のような言葉が、今も胸の奥を抉っている。

 ――私は、彼の隣にいていいの?

 その言葉が、晴菜の脳内をぐるぐると際限なく回り続けている。
 仕事上、客に軽くあしらわれることには慣れている。酔った客に心ない言葉を投げつけられた夜だって一度や二度ではない。
 けれどそれらはすべて『店のカウンター』という結界に守られた一過性の悪意に過ぎないもので、先ほどのように、冷静に、冷淡に踏み躙られる経験はこれまでしてこなかった。

「……酔った客に、よく言われるんです。お前たちは俺たちの話を聞いて、酒を出すだけの機械だ、って。そういうの、聞き流すのは得意なはずなんですけど……」

 窓の外を流れる見慣れない景色がより一層涙を連れてくる気がして、晴菜は瞬きで雫を散らした。

 ――大きな……何でも持っている家の人なら、この人はもっとずっと遠くまで羽ばたける。

 彼は歴史ある酒蔵の継承者の一人。対して、晴菜はただのしがないバーテンダー。
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