君を酔わせるまで離さない〜ワンナイトのはずが絶倫すぎる俺様副社長に本気で囲われています〜
 夜も更け、新宿の喧騒が湿度を帯び始めた頃。BARギャレットは今夜も無事に営業時間を終えた。
 晴菜は黙々とグラスを拭きあげる作業を続けていた。リネンの布越しに伝わるグラスの冷たさが、火照った指先に心地よい。
 磨き上げたグラスをグラスハンガーに戻すと、照明を反射してきらりと光る。その無機質な輝きが、昨日の麗奈の冷徹な瞳を思い出させた。

「……」

 奏汰は『誇りを持て』と言ってくれた。けれど、心の奥でゆらゆらと揺れる天秤は止まることを知らなかった。

「衣笠~。そろそろ上がれ、あとはやっとく」

 カウンターの端でレジの締め作業をしていた店長の松本が、気だるげに髪をかき上げながら晴菜に声をかけた。顎に蓄えた無精ひげがトレードマークの彼は、三十代半ばにしてこの界隈ではそれなりに顔が利く男だ。
 今日のような遅番の時、普段はカウンターの後ろにある酒瓶を並べた棚――バックバーの片付けまで終えてから退勤する。片付け途中で退勤を促されることは初めてで、晴菜は戸惑いながら言葉を返した。

「でも、まだバックバーの整理が……」
「いいから」

 晴菜の声を短く遮った松本は、紙幣を揃えながら言葉を続ける。

「お前の作るジントニック、今日のはちょっとだけライムが強かった。迷いがある時の味だ」
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