【完結&番外編追加中】三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚した件につきまして
勇輝さんに連れて行かれたのは、高級ホテルの中にあるバーだった。

薄暗くて、お酒やグラスが間接照明に反射してキラキラしていた。

勇輝さんの隣に座る。

勇輝さんはウィスキーを飲んでいる。

私はノンアルコールのカクテル。

今日は覇気がいつもより少ない……気がする。

「体調は回復されましたか?」

「……ああ」

勇輝さんはグラスの中で揺れる氷を眺めている。

「社長は俺の事を何か言っていたか?」

言ってしまっていいのだろうか……。

私が悩んでいると

「君が何を言っても何の支障もないから安心しろ」

ならば。

「社長は自分が経営のセンスがなくて、勇輝さんに迷惑をかけたと後悔していました」

勇輝さんが飲み干した。

「そうか」

「あと……社長を退任する意向があるようです……」

勇輝さんは何も言わなかった。

「大変な時に、とても頑張られてたんですね」

勇輝さんが鼻で笑う。

「私も社畜だよ」

う……
キレて勇輝さんに言ってしまった言葉を思い出した。

「あの会社の利益のことしか考えこなかった。ずっと」

店内のBGMだけが私たちの間に響いている。

その後は何も言葉も交わさず、ただ私はそこにいるだけだった。

勇輝さんは何かを考えながら、ゆっくりと呑んでいた。

***

バーから出た私が帰ろうとすると

「タクシーで帰りなさい」

一万円が差し出された。

「勇輝さんはどうされるんですか?」

「私はここに泊まる」

「……女の人が来るんですか?」

つい余計な事を聞いてしまった。

「あれは取引先で関わった人間が寄ってきて、都合がいいからああしているだけだ」

「そ、そうなんですね……」

「もうそこまでする気もなくなった。今日は一人でゆっくりしたい。それだけだ」

勇輝さんは私にタクシー代を渡したら客室に行ってしまった。

複雑な思いを抱えながら、私は自宅に向かった。

『お父さんと話せた?』

勇凛くんにメッセージを送る。

しばらくすると返信が返ってきた。

『はい。今日は送れなくてすみませんでした』

勇凛くんはお父さんと何を話したんだろう。

私には計り知れない林家の親子事情。

でも他人事ではない。

電車の中でこれからのことをぼんやりと考えていた。
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