ガラスの告白
 時男は忘れ物と言うのが「秘密」と、悪ふざけ隠していた名前だったことに、嬉しさを含む脱力を感じました。
 目の前にはチョークを差し出す少女が、視界に入ります。 

 時男はそれを受けとり黒板にチョークを当てますと、空欄になっていた傘の右側に、自分の名前を苗字から書きつづっていました。
 そこには、萩原という苗字ではなく、病気で死んだ父親のものを書いていました。

「僕も本当は苗字が三つあるんだ。これは一番好きで幸せと思えた時。本当はあまり覚えていないから、そう思い描いているのかも」

 二人は黒板の前に並び、書かれたお互いの名前を見つめています。

 少女は驚くことなく、私達はつらい過去を乗り越え大人であるのだと澄ましながらも、強がるように明るく言葉を返しました。

「ふーん。複雑なんだね」

 時男も、自身も過去を乗り切れると、小さな笑みを繕います。

「うん。そうだね。複雑だね」

 時男はその辛い生い立ちを、少女に話そうか迷っていました。
 少女のように強がってはみたものの、実際には口に出すのが怖く躊躇します。
 告白を聞いた少女が想像以上の反応を示したならば、自身の心が傷付き壊れてしまうのではないかと不安さえも襲います。
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