ガラスの告白
 この街でよく知る人物ではありましたが、突然話しかけられたことに気が動転していたようです。
 一瞬、認識が遅れます。

「おっ、おはようございます」

 時男は慌て頭を軽下げ、挨拶を返しました。

「後ろ乗りなさい」

 間髪入れず行動に移す渡辺の母親は、声と同時に振り返るよう手を伸ばしますと、後部座席のドアロックを外しました。
 学校など目的地に相乗りすることは、この辺ではよくある光景ですが、時男には初めてのことでした。しかもその相手が、渡辺ということに躊躇します。

 
 渡辺は現在の住まいに引っ越す前は、時男の住まいからほど近いところに暮らしていたので、幼い頃から顔馴染みでありました。
 小中高っと学校も同じでしたが、高校になり初めてクラスメートになったのです。

 小学校の頃はそれなりに仲も良く、夏祭りに共に出かけたり、冬にはスキー教室に誘ってもらうこともありました。ですが中学生になった辺りからか、時男をみて不安に似た表情を浮かべるようになっていました。


 その表情が色濃く出たのは、渡辺が他の男子生徒と仲良くふざけ合うのを見た時でした。
 それは、何気ない光景。教室横の廊下で微笑み会話をしている光景でした。
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