ガラスの告白
 時男に比べ若干小柄な渡辺は、短い髪の毛を整髪料で硬め立たせ、背筋を伸ばすように堂々とした姿勢で歩いていました。
 元々の育ちがいいのか、足の運びも優しく、それがガサツに映ることはありませんでした。
 その立ち振る舞いと目新しく清潔な服装は、時男から見ても好青年の姿にうつっていました。

(女子に人気なのもわかる。スポーツ万能だしな)

 昔は百メートル走なら、自分の方が早かったのに。
 鉄棒もコツを教えたり、遊びで行ったバトミントンだって、負けることはあまりなかった。


 今ではスポーツマンっと言えば、クラスのみんなは渡辺と声をあげるだろうっと、時男は青年の容姿なった渡辺の後ろ姿を意識していました。


 そんな時男の心情を察したかのように、渡辺は軽く振り返ると、話しかけるタイミングを伺っています。
 久しぶりに会話ができるのであろうかと悩むように一拍あけると、目線を合わせる事なく話しかけました。

「母さん。とっ君がこの町に残るの羨ましがってたんだ。俺、春から茨城の大学だから」

 とっ君。それは久しぶりに彼から呼ばれる時男のあだ名でした。
 昔は彼からそのように声をかけられていましたが、今ではそのように呼ばれることも、話しかけれることもありませんでした。
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