ガラスの告白
 息子、時男(トキオ)は卒業間近の高校三年生。
 この春からこの町で 就職も決まっていました。
 就職先は建築資材を取り扱う小さな会社でしたが、内定が決まっていることに母親は喜んでいます。
 
 青年から大人に変わるようで、今は凛々しくも感じていました。 
 母親は近づくと、学校終わりに働くアルバイトの話題を持ちかけています。

「雪が止んで良かったわね。ガソリンスタンドのお仕事、今日で終わりでしょ」

「うん」

「最後の日だから、頑張ったお祝いに、何かご馳走でも作ろうかしら?」

 優しい言葉をかけてくれる母親でしたが、時男にはその表情が、疲れたものに見えていました。
 時男が学校に出かけた一時間後には、母親も電気配線工場の検査員として勤めに出ます。
 家事や勤めに追われていることを心配し、時男は甘える言葉を漏らすことはやめようと思いました。

「……いいよ。母さんだって仕事から疲れて帰ってくるんだから。特別なことしなくて」

 期待の返事とは違うことに、母親は小さく眉間にシワを寄せました。
 はしゃぐ事はないけれども、食べたいものは何かと考え、楽しみにするかと思ったに違いありません。
 母親はどこか、困ったかのように、言い訳のような言葉を漏らしていました。

「就職のお祝いもしてないから、何か時男に……」

 尻つぼむ声に時男は、目線を向けることは出来ませんでした。
 母親のことをいたわり、遠慮をしたのですが、小さな気まづさを運んでしまいました。
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