ガラスの告白
 時男はのどで鳴るほどの小さな声で「うん」と言葉をかけ頷くと、男性に向かい恐々頭を下げました。
 男性は時男の会釈には反応することなく、少女のことを気にした様子で、こちらを見ています。

 何かあったらなら、今にでも近づこうと、身構えているようにも思えていました。
 少女は「じゃあ、また明日ね」っと、言葉を残すと建家の方に向かい歩き出します。
 ふと見た少女の足元では、綺麗な革靴が砂埃で汚れています。

 少女が普段着ている清潔なコートも、都会的な皮製の鞄も、住まいからは不釣り合いに思い、なんだか寂しい気持ちになっていました。
 少女が時折振り帰り笑顔を送ると、時男は胸元まで手を上げ答えていました。
 自宅前に辿り着くと、こちらに視線を向け、時男が友人であることを老夫に伝えているようでした。

(どのように、思われたのだろう。挨拶の言葉をかけなくて、立ち去って良いのだろうか)

 時男は現在の状況が正しいことであるのか、不安をお覚えていました。
 幾度も振り彼り、その場から離れていくと、建家の中からはもう一人、少女のお婆さんと思われる老婦も玄関先に出てきてました。

 腰を曲げ足腰が悪いのか、建屋の壁に手をつき、体を支えるように立っています。
 少女は老婦にも、時男のことを説明しているようでした。
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