ガラスの告白
 少女が手を振ると、時男も再び手を振り答えました。
 老夫婦はそれまでと違い、時男に向かい深深く頭を下げています。
 時男も慌て、頭を下げ返しました。

 老夫婦のその誠実な態度から、時男はあらためて少女の存在が気になると、心は何故か曇り、そのような気持ちになっているのか理解も追求することもなく、その場を離れて行きました。

 一人での帰り道。
 白くぼやけた水色の空は、夜の青さに染まり出していました。
 昼間とは違う冷たい空気に、時男はコートの胸元を手で閉じ、肩を縮めて歩いています。

 森を切り開いた石砂利の細い道には、溶け切れなかった雪と、腰ほどの高さまで伸びた黄金色の草が、雪の重みで腰を曲げ形どっていました。
 そこを歩き抜けバスの通る道に出ると、ゆっくりと左右を眺めるように確認していました。

 田畑の中に数件の住まいが在るだけの場所では、見通しは良く、今まで見えなかった夕日が、遠くの空を燃やしていました。
 その夕日は時男の帰る道筋を。すごく斜めに照らしています。
 
 家路に向かうバス停が見えますと、財布の小銭がいくら残っているかを、頭の中で思い出し確認をしていました。

(確か数百円あるはず。遅いからバスを使おう)

 背後から現れたバスのヘッドライトに気づくと、ディーゼルエンジンの唸る音がかすかに聞こえ、時男は乗り遅れまいと、急足でバス停に向かいます。
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