だからアナタに殺されたい。



そんなお母さんの傍で、お父さんは状況を確認するようにいろいろなところに視線を動かしている。
そして、最後に私を見た。
とても辛そうな瞳で。



「…人間の血を飲んだのか」



お父さんの悲痛な声に、ローゼルの姿が頭をよぎる。

サラサラの黒髪の間から覗く、彫刻のようにおそろしく整った顔が無表情に私を見つめる。
一見冷たいように見えるその表情は、私には柔らかく見えた。
まっすぐで、優しい人。

私の好きな人。

彼の血を私は確かに食らった。
何度も、何度も。

ああ、今だって想像するだけで、こんなにも熱くなって、欲しいと頭が痛くなるほど思ってしまう。

辛そうに私を見つめる2人に、力なく頷く。
すると、それを見た瞬間、お母さんが優しく私を抱きしめた。



「そう、そうなの…。辛かったわね…」



声だけでお母さんが泣いていることがわかる。
抱き寄せられた暖かさに、私はもう涙を止める手段がわからなかった。
それから鼻に微かに薬の匂いを感じた。
意識を奪う類のものだ。

お母さんの温もりに抱かれて、私はゆっくりと意識を手放した。


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