だからアナタに殺されたい。



「人間から血を得る強烈な感覚を実際に体験しているエレノアさんならわかると思いますが、あの快楽はいわば吸血鬼にとっては麻薬です。一度覚えてしまった快楽に、吸血鬼は逆らえない。飲めば飲むほど、欲しくなって、止まらなくなっていく。そうして行き着く先が…」



医師にそこまで言われて、ドクンッと心臓が大きく跳ねる。
もう最後まで言われなくても、わかってしまった。

必要な血が不足し、本能に駆られ、血を求める行為が禁断症状だ。
同じく、血と快楽の中毒に陥り、それを求めることも…。



「禁断症状ですか…」

「はい、その通りです」



弱々しい私の声に、医師が頷く。

自分から発せられた言葉が信じられず、私は頭が真っ白になった。

禁断症状に陥るということは、バケモノになってしまったということに等しい。
処罰の対象であり、死は免れない。



「血を一度吸ってしまったが最後。吸血鬼はその本能を抑えられず、相手が死ぬまでその血を喰らい続けます。結果、私たちの先祖は人間を殺し尽くし、人間に忌み嫌われる存在となったのです。その歴史から私たちはタブレットを作り出し、人間とは争わない世界を完璧に作り上げました。何百年も何百年もかけて。…しかしその弊害として、直接血を吸うリスクを知る者が限りなく減りました。皮肉なものですね」



確かに人間を殺してきた歴史は教わってきたが、直接血を吸った結果が招いたことだったとは全く知らなかった。

夢にも思わなかったのだ。
人間から直接血を吸う日常があったことなど。
私たちは血を求める本能があるだけで人間と変わらず、血を飲むという行為に抵抗があった。
あれはバケモノの行うものだ、と。



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