『女神の加護を 受けし者は世界を救う』

②承:聖女見習い


神殿での奉仕。
朝の礼拝から始まり、掃除に洗濯。
清浄な状態にしてから料理に食事、後片付け。
休憩もなく聖女や過去の歴史を学ぶ。
魔法学園と同等の教育。
召喚された聖女にとっての2年。
それを見習いは5年間、学園の入学前に学ぶ。
彼女の努力は、こんなところにもあったのかと目の当たりにする。
学園で他の生徒と同じように学び、休みの日には神殿で復習と予習。
休みなく。家族にも会えず。

私は他の見習いに負けるわけにいかない。
魔法はもちろん、座学も。
私は恵まれている。
家族との交流も週に一度は許され、誰も欠けることなく。
未来を回避した家族。多くの国民。
誰かが回避している。
聖女様はまだ召喚されていないのに。一体、誰が。

「エルティナ、こちらへ。」
神官ライオネルに呼ばれ、女神レイラリュシエンヌ様の像の前。
私は両膝をつき両手を組んで祈る。
あの時のような啓示はない。
あの事を誰にも言っていない。
それでも家族やライオネルは風を感じ、私に期待の目を向けた。
「ライオネル様、何か。」
「聖女エルティナよ。」
「いえ、私は聖女ではありません。それは女神レイラリュシエンヌ様に誓って申し上げます。私から聖女見習いに候補したとはいえ、聖女様になりたいわけではありません。なってはいけない。本物が未来に現れるのですから。」
まるで予言のような言葉。
ライオネル様は、以前とは違う。
感情を抑制された無表情だった記憶がある。
そして言葉はどこか棘があるような、時に鋭かった気がする。
私が聖女様を嫌っていたからかもしれない。
けれど、今のライオネル様は穏やかに微笑んで。
丁寧な言葉だけれど、棘など感じない語調。
「そうですね、予告された魔王の復活。それに備えて、私達は常に努力をしなければなりません。あなたの弛まぬ努力、何がそうさせるのかと。問うまでもありませんでしたね。」
心配してくれたのだろうか。
「ありがとうございます、女神レイラリュシエンヌ様に祈る機会を増やしてくださり感謝いたします。」
この礼拝堂は特別。
日課の礼拝では入れない場所。私達は見習いだから。
「あなたに女神レイラリュシエンヌ様の加護がありますように。」
ライオネル様は私に微笑んで、そう告げた。
『加護』とは。
私も穏やかに微笑んだ気がする。
学園では学ばない部分。
聖女とは。
清廉潔白。自己犠牲。
なんとも抽象的。言葉の羅列。
だけど私は知っている。彼女こそ聖女そのもの。
努力と忍耐。家族との愛を求め帰ることを願い。希望を捨てず。
この世界の為に。
私にそれが出来ただろうか。
出来ない。
望んでいない場所に来て。
あぁ、なんと尊い存在なのだろう。



< 12 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop