『女神の加護を 受けし者は世界を救う』

与えられた環境は当たり前じゃない。
失ったものを得るなど贅沢な話。
だからこそ家族との一時も無駄にしたくない。
学べる時間も、聖女様が来るまでの期間。
私に出来ることを探して。
この世界は無理でも、この国民一人の為に何が出来るだろうか。
「ライオネル様、この本の事をもっと詳しく知るにはどうすればいいですか?」
神殿に集められた伝記の巻物や、口伝の走り書きの写し。
古代魔法や古代言語。ありとあらゆる知識を吸収し、それでも見つからない答え。
「どれほどの考察をしたのですか。」
「3つの証拠が欲しいのです。2つまでは見つかりますが、可能性を広げると覆る。そんな不確かな情報は切り捨てなければ。」
何を信じるか。私には分からないから。
「エルティナ、あなたが目指すのは聖女ではないと私に告げたのはいつの事でしょうか。」
「もう3年です。後2年しかありません。」
「まだ魔王復活には猶予があります。」
「聖女様が来るのです!学園の入学前、召喚されて。私は、それまでに何が出来るのかと。」
「……召喚?何を言っているのですか。」
はっ。それって、まだ秘匿されている事?
思わず出た言葉に、口を押え。
私は何も変わっていないのだと、自己嫌悪する。
「ライオネル様、ごめんなさい。忘れてください。私は書物を読みすぎて、何か勘違いをしたのです。誰にも言いません、誰にも言わないでください。」
あぁ、本当に成長しない。
取り乱すなど、見習いにもふさわしくない。
ライオネル様は私の両肩に優しく手を乗せ、穏やかに微笑む。
心音が自分に聞こえるほどバクバクしている。
「息をゆっくりと吐きなさい。」
ライオネル様は私の目を見つめたまま。
言われた通りしなければ。
私は軽く吸った息を吐き出し。それを繰り返して、少しずつ長くしていく。
「落ち着きましたか?」
「はい。」
落ち着いたけれど。
今度は情けなさに、涙が零れた。
それは無意識に近く感情的でもない。自然と溢れて零れ落ちていく。
ライオネル様は優しく抱き寄せ、私の背中を撫でた。
「よく頑張っていますよ。あなたは無理のしすぎです。焦らなくてもいい。私がいます。魔王だって倒せるでしょう。この世界もきっと。」
そう、聖女様がもうすぐ来るのだから。
魔王だって。この世界だって。きっと。
「召喚など、昔に滅んだ失敗の記述しか見た事がありませんからね。未来を切り開くのは、常にこの世界に生まれた者なのです。だから勇者も見つかったのですよ。」
召喚はない。
世界を救うのは。


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