『女神の加護を 受けし者は世界を救う』

「ふん。あなたなんて、魔王に殺されればいいのよ。」
頭が真っ白になった。
そう言ったのは、王子ユーリスの婚約者エルティナ様。
閉ざされた感情が放出された。
それは、魔力をコントロールできたからか。
それとも限界だったのか。
「もう嫌だ。帰りたい。私は、あなたの婚約者に何の感情もない。あなたには、王子と結婚してこの国を導く役目があるんじゃないの?この国民の為に生きなさいよ!私は、この世界の為に来た。来たくて来たんじゃない。好きで魔法など、学んでいない。全然、楽しくない。お父さんとお母さんに会いたい。弟と妹にも。友達にも会わせて。帰らせてよ!……死ぬかもしれない。これはゲームじゃない。分かる。感情を押し殺してきたけれど、背負わされても負いきれない。私はまだ子どもなんだから。好きな人は、地球で日本で探す。仕事をして、子どもを産んで、そこで死んでいく。……死にたくない。帰らせてよ…………」
これは、なんらかの乙女ゲームなのかもしれない。
婚約者のいるユーリスは、優柔不断にも私に何かを期待する。
聖女以外の役割。
側近の騎士なのに、私と対等で。意地悪に近い距離。
先生のキスも現世だと犯罪だよね。気持ち悪いのよ!
男前だから許される?知らない。私の願いは、ここにはない。
私には夢がある。ここでは叶わない。こんなところで時間を無駄にしたくない。
だけど!目にしたこの世界。人。
聖女だと言われ。今までになかった能力や環境を与えられ、違和感に抗い。
考えたくない死。
それよりも。魔王をどうするの?
魔法を学び、聖女としての立ち居振る舞いは清廉さを求められ。
結局、排除しなければ平和は得られない。
殺すの?倒す?どこまでダメージを与える?
封印?また予言の時が来たら?魔王とは何なの。
「落ち着きましたか、リセ。」
泣き叫んで、力尽き。床に座り込んでいた。
涙も枯れて。声も出ず。
虚ろな視界に入ったのは、神官のライオネル。
誰かが神殿から呼び寄せたのだろうか。
この世界にも眼鏡があるんだと、そう。時計も。同じ24時間を刻む。
夢なら覚めて欲しい。

ライオネルの足元に広がる魔法陣。続く詠唱。
あぁ、回復魔法。この前に学んだものだ。
聖女に求められる清廉さ。
あぁ。もしかすると魔王を倒さず、殺さずに問題を解決できるかもしれない。
そう思った。遠退く意識。聞こえる周りの騒めき。
自分の中を巡る魔力。源。意識を集中する。
それは光。眩い。暖かな。
聖女とは。

乙女ゲームはしたことがない。
国や学園の名前、世界。知れば知るほど記憶にもかからず。
数少ない読んだラノベ。これは現実。
私には帰りたい場所がある。叶えたい夢もある。死に場所はここじゃない。
誰も殺したくはない。傷つけるのも嫌だ。
回復魔法で直せばいい?違う。その魔法も、この世界では貴重。
全ての人に平等などない。
私の日常は今、この世界。
召喚されたから。選ばれたから。
私は聖女じゃない。聖女にはならない。
だけど世界は救う。


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