『女神の加護を 受けし者は世界を救う』
「おい、手荷物はもう積み込んだ後だぞ。」
知ってるけど。仕方ないじゃない。
これがイベントか知らないけど、空気読めないヤツが持ってきたのだから。
しかも宴で渡すとか。
それをどうにかするのが、側近の役目では?
いや、護衛的な意味での側近だから違うのか。
割と面倒見よくて甘えていたのだと自覚した。
「フリック。ありがとう、どうやら甘えすぎていたのだと今、気づいたわ。その乱暴な口調も、他の誰かではなくフリックだけ。普通の理世でいられた。」
「お前は特別だよ、他の誰でもない。俺は、お前の為に命も懸ける。身を呈して守る。お前だけでも生きて帰ってくれ。」
私は視線を合わせたまま、手に持った収納カバンをフリックに渡した。
「それ、整理の終わった荷物に追加しといて。今から、ライオネルのところに行かなきゃいけないから。」
フリックは上機嫌で背を向け、宴の会場を後にした。
私の為に死ぬ?ふざけんな。後味悪い。
自分が死にたくないのは当然として、誰かに庇われて死なれるとか気分が悪い。
二度と、聞きたくない。
フリックが近距離だからだろうか。
誰よりも魔王に近く、常に喪うのではないかと。
「聖女よ、不安なのですか?」
ライオネルの方が不安そうな表情だと思うのだけれど。
この人が恐れているのは、私ではなく聖女を失う事。
「不安しかない。学園でも魔法や学力などの試験で一番にはなれなかった。」
「成績が全てではありません。あなたはこの世界に召喚され、ここで生きてきた者たちとは違うのです。」
そう、私はここの人間じゃない。
そうね。確かに日本で、何か一番になったとしても。
もう……戻ったとしても、私の居場所はないかもしれない。
この年月。私も大人の年齢。絶望と恨み。
「ライオネル、聞きたいことがあるの。」
「なんでも。」
「私以外に、聖女候補がいたでしょう?」
「どうして、そんな事を。」
やはり、居たんだ。
「その人たちは、今、何をしているの?」
全員、聖女にしてしまえばいい。
そして、少数に任せるのではなく。国として立ち上がるべきだ。
この世界の危機なのだから。
「聖女リセ。あなたは選ばれたのです。」
「誰が?何の為に?」
「この世界の女神、レイラリュシエンヌ様です。あなたは、魔王の復活に備えて頑張ってきたのではありませんか?この世界の歴史を学び……」
「そう、頑張ってきた。予告された魔王は復活する。それは何度、この世界で繰り返してきた?」
歴史を学んだ。けれど、どんなに調べても前回の勇者の記述が少し。
その役割の勇者がいる。ジークハルトだ。
そして、共に紹介があった魔法使い。マリー。
彼女は学園で、魔法の試験で常に一番の成績だった。
「聖女リセよ。これからの道のりはまだ長く、魔王の復活まで猶予が少し。あなたは聖女として、何が出来るのか。それだけを考えるように。」
神官ライオネル。聖なる力を使うなら、あなたが聖女の役をすればいい。
聖女とは何か。
私の中で、イメージとして存在するのはマリア様だろうか。
神から選ばれ、御子を産み。
で?それ以外を知らない。
何故、私だったのか。
そう、私は魔王を倒すために召喚された。