社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした
その頃
会議を終えた一ノ瀬は、
エレベーターホールで足を止めた。
「……マサト」
少し低い声。
背後に立っていた大柄な男が、
即座に一歩前へ出る。
「はい」
「例のモデル。
エリカの件、どうなった?」
マサトは一瞬も迷わず答えた。
「友梨さんの判断で、
本日付で起用を
取り下げたそうです」
一ノ瀬は、わずかに眉を上げる。
「……早いな」
「調査は澪さん主導だったようです。
反社との接点を確認した時点で、
即決だったと」
「そうか」
それだけ言って、
一ノ瀬は歩き出す。
マサトは半歩遅れてついていく。
「表向きは“イメージ戦略の見直し”ですが、
実質的には完全に切っています」
「……助かったな」
ぽつりと落ちた一言。
「はい」
マサトは、それ以上踏み込まない。
一ノ瀬は、
ガラス張りの壁に映る自分の姿を
一瞬だけ見て、
小さく息を吐いた。
(三条友梨、やっぱり、只者じゃない)
判断が早い。
情に流されない。
それでいて、現場を守る。
「マサト」
「はい」
「……余計な手は出すな」
「承知しています」
「彼女が選んだ結果なら、それでいい」
マサトは、わずかに口元を緩めた。
「社長、
……随分と気にされていますね」
一ノ瀬は、歩きながら肩をすくめる。
「気にしてない。ただ――」
一拍、間を置く。
「“放っておけない”だけだ」
マサトは、それ以上何も言わなかった。
エレベーターの扉が閉まる
その静かな密室で、
一ノ瀬 海は、
知らず知らずのうちに、
“守る側”の顔になっていた。
会議を終えた一ノ瀬は、
エレベーターホールで足を止めた。
「……マサト」
少し低い声。
背後に立っていた大柄な男が、
即座に一歩前へ出る。
「はい」
「例のモデル。
エリカの件、どうなった?」
マサトは一瞬も迷わず答えた。
「友梨さんの判断で、
本日付で起用を
取り下げたそうです」
一ノ瀬は、わずかに眉を上げる。
「……早いな」
「調査は澪さん主導だったようです。
反社との接点を確認した時点で、
即決だったと」
「そうか」
それだけ言って、
一ノ瀬は歩き出す。
マサトは半歩遅れてついていく。
「表向きは“イメージ戦略の見直し”ですが、
実質的には完全に切っています」
「……助かったな」
ぽつりと落ちた一言。
「はい」
マサトは、それ以上踏み込まない。
一ノ瀬は、
ガラス張りの壁に映る自分の姿を
一瞬だけ見て、
小さく息を吐いた。
(三条友梨、やっぱり、只者じゃない)
判断が早い。
情に流されない。
それでいて、現場を守る。
「マサト」
「はい」
「……余計な手は出すな」
「承知しています」
「彼女が選んだ結果なら、それでいい」
マサトは、わずかに口元を緩めた。
「社長、
……随分と気にされていますね」
一ノ瀬は、歩きながら肩をすくめる。
「気にしてない。ただ――」
一拍、間を置く。
「“放っておけない”だけだ」
マサトは、それ以上何も言わなかった。
エレベーターの扉が閉まる
その静かな密室で、
一ノ瀬 海は、
知らず知らずのうちに、
“守る側”の顔になっていた。