社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした

6.現実なのか、夢なのか

 「……嫌なら、」

 低い声。
 友梨は首を振った。
 それだけで、一ノ瀬の表情が少し変わる。

 指が伸びて、友梨の頬に触れる。

 さっき涙を拭った指。
 そのまま、顎にかかる。

 ゆっくり、顔が近づく。
 もう一度、唇が重なった。

 深くはない。
 でも、長い。
 友梨の胸が、早くなる。

 一ノ瀬の手が、友梨の肩に触れ、
 ブラウスに指をかける。
 問いかける視線。
 友梨は、小さく頷いた。
 ブラウスが、静かに肩から外される。

 友梨は、息を止めた。
 触れられているのに、乱暴じゃない。
 それが、逆に胸を締めつける。

 一ノ瀬は、途中で手を止めた。
 「……無理はさせない」

 そう言って、額に軽く口づける。
 友梨の視界に、一ノ瀬の胸元が入る。
 そこから先は、
 考えないようにしていたのに。
 友梨は、無意識に一ノ瀬の腕に触れていた。

 それに気づいて、一ノ瀬が静かに息を吐く。
  「……怖いか」
 友梨は、首を振った。

 怖いのは、この人を信じてしまう
 自分だった。

 一ノ瀬の手が、友梨の背に回る。
 引き寄せられて、胸が触れ合う。
 唇が、もう一度重なった。
 今度は、さっきより長く、絡み合う。

 友梨は、目を閉じた。
 この先を、想像してしまうのに、
 止められない。

 一ノ瀬の声が、すぐ近くで落ちる。
  「……責任は、俺が取る」

 その言葉に、友梨の胸が熱くなる。
 友梨は、小さく頷いた。
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