社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした
——その頃。
「最近、ゴミ増えたな。
観光客が増えたからか」
歩道の端で、清掃員の格好をした男が、
黙々とゴミを集めていた。
一ノ瀬 海。
帽子を目深にかぶり、
派手さのない作業着。
手つきだけが、不思議なくらい
無駄がなかった。
その耳に、切れた声が届く。
「きゃ……やめてください!」
続けて、酒臭い怒鳴り声。
「ねえちゃん、
今晩ちょっと付き合えや!」
友梨は、思わず足を止めた。
視界の端で、強面の男が腕を掴んで
引っ張っている。
「ちょっと、離してください!」
「いいだろ、ちょっと飲むだけだって」
男の息が臭い。
酒の匂いが、まとわりつく。
次の瞬間。
「お兄さん。
嫌がってるじゃないですか。
——そのへんで、
許してあげてくださいよ」
低い声が割って入った。
振り向くと、清掃員の男が立っている。
作業道具を手にしたまま、
落ち着いた目をしていた。
「はぁ? なんだお前」
男が、いきなり殴りかかる。
——けれど、清掃員の男は、
まるで風を避けるみたいに
身体をずらした。
次の瞬間、相手の足がふっと浮き、
酔っぱらいは自分の勢いのまま、
地面に転がった。
「っ……この野郎!」
男が立ち上がりかけた、その隙。
清掃員の男は、
迷いなく友梨の手首を取った。
「こっち。走れる?」
「……っ、はい!」
二人は一気に駆け出す。
細い路地を曲がり、また曲がり、
暗がりへ滑り込む。
「最近、ゴミ増えたな。
観光客が増えたからか」
歩道の端で、清掃員の格好をした男が、
黙々とゴミを集めていた。
一ノ瀬 海。
帽子を目深にかぶり、
派手さのない作業着。
手つきだけが、不思議なくらい
無駄がなかった。
その耳に、切れた声が届く。
「きゃ……やめてください!」
続けて、酒臭い怒鳴り声。
「ねえちゃん、
今晩ちょっと付き合えや!」
友梨は、思わず足を止めた。
視界の端で、強面の男が腕を掴んで
引っ張っている。
「ちょっと、離してください!」
「いいだろ、ちょっと飲むだけだって」
男の息が臭い。
酒の匂いが、まとわりつく。
次の瞬間。
「お兄さん。
嫌がってるじゃないですか。
——そのへんで、
許してあげてくださいよ」
低い声が割って入った。
振り向くと、清掃員の男が立っている。
作業道具を手にしたまま、
落ち着いた目をしていた。
「はぁ? なんだお前」
男が、いきなり殴りかかる。
——けれど、清掃員の男は、
まるで風を避けるみたいに
身体をずらした。
次の瞬間、相手の足がふっと浮き、
酔っぱらいは自分の勢いのまま、
地面に転がった。
「っ……この野郎!」
男が立ち上がりかけた、その隙。
清掃員の男は、
迷いなく友梨の手首を取った。
「こっち。走れる?」
「……っ、はい!」
二人は一気に駆け出す。
細い路地を曲がり、また曲がり、
暗がりへ滑り込む。