社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした
11.明らかになる、夫の正体
「……マサト、ありがとう」
一ノ瀬が、静かに言った。
その声で、
ようやく友梨は我に返る。
「か、一ノ瀬さん……
これは、どういう……」
言葉が、うまく続かない。
その横で、
マサトが一歩前に出た。
ゆっくりと。
まるで、
当然の事実を告げるように。
「――一ノ瀬 海 社長」
低く、はっきりした声。
「グローバルホールディングス
代表取締役です」
……一瞬、
音が消えた。
「…………え?」
頭が、追いつかない。
グローバルホールディングス。
IT、不動産、金融。
ニュースや経済誌で、
何度も目にした名前。
(あの……?)
(“あの”巨大ベンチャー?)
ゆっくりと、
友梨の視線が、一ノ瀬へ戻る。
一ノ瀬は、
困ったように、ほんの少しだけ笑った。
その横で――
澪が、微笑んでいる。
(……え?)
「……え?
みんな、知ってたの?」
思わず、声が裏返った。
澪は、
落ち着いたまま頷く。
「はい」
「存じております」
「え……」
「国内でも有数の、
巨大ベンチャーの代表です」
あまりにも淡々とした説明に、
余計に混乱する。
(え、
私だけ……?)
頭の中で、
清掃員の姿と、
今目の前にいる男が、
何度も重なっては、ずれる。
「……とても」
「とても、驚いてます……」
正直な気持ちだった。
一ノ瀬は、
小さく息を吐いた。
「説明は後だ」
「まず、座ろう」
そう言って、
隣の応接室へ促す。
柔らかなソファ。
低いテーブル。
落ち着いた照明。
友梨は、
言われるまま腰を下ろした。
(……社長室の、
応接室……)
現実感が、
まだ戻らない。
一ノ瀬は、
向かいの席に座ると、
すぐに表情を切り替えた。
「早速だが」
「マサト。
今回の件、報告してくれ」
「はい」
マサトは、
一礼してから口を開く。
「今回の一件ですが」
「政治家が、
絡んでいる可能性が高いです」
友梨の胸が、
ひくりと跳ねる。
「政治家……?」
「はい」
「匿名告発の経路、
捜査の踏み込み方」
「いずれも、
通常の案件とは異なります」
淡々と、
しかし重い言葉。
「裏で、
糸を引いている人物が
いるはずです」
一ノ瀬が、
静かに頷く。
「……だが?」
「現時点では」
マサトは、
一拍置いて続けた。
「そこまでしか、
特定できていません」
「ただ――」
視線が、一ノ瀬へ向く。
「これだけで
終わる案件とは、
考えにくいです」
その言葉が、応接室に、
重く落ちた。
友梨は、無意識に、
指先を握りしめていた。
(……やっぱり)
(終わってなんて、
いなかった)
その横で、一ノ瀬は、
視線を伏せたまま、
静かに言った。
「……想定どおりだな」
それは、
慰めでも、
安心でもなかった。
——ここからが、
本当の始まりだと、
告げる声だった。
一ノ瀬が、静かに言った。
その声で、
ようやく友梨は我に返る。
「か、一ノ瀬さん……
これは、どういう……」
言葉が、うまく続かない。
その横で、
マサトが一歩前に出た。
ゆっくりと。
まるで、
当然の事実を告げるように。
「――一ノ瀬 海 社長」
低く、はっきりした声。
「グローバルホールディングス
代表取締役です」
……一瞬、
音が消えた。
「…………え?」
頭が、追いつかない。
グローバルホールディングス。
IT、不動産、金融。
ニュースや経済誌で、
何度も目にした名前。
(あの……?)
(“あの”巨大ベンチャー?)
ゆっくりと、
友梨の視線が、一ノ瀬へ戻る。
一ノ瀬は、
困ったように、ほんの少しだけ笑った。
その横で――
澪が、微笑んでいる。
(……え?)
「……え?
みんな、知ってたの?」
思わず、声が裏返った。
澪は、
落ち着いたまま頷く。
「はい」
「存じております」
「え……」
「国内でも有数の、
巨大ベンチャーの代表です」
あまりにも淡々とした説明に、
余計に混乱する。
(え、
私だけ……?)
頭の中で、
清掃員の姿と、
今目の前にいる男が、
何度も重なっては、ずれる。
「……とても」
「とても、驚いてます……」
正直な気持ちだった。
一ノ瀬は、
小さく息を吐いた。
「説明は後だ」
「まず、座ろう」
そう言って、
隣の応接室へ促す。
柔らかなソファ。
低いテーブル。
落ち着いた照明。
友梨は、
言われるまま腰を下ろした。
(……社長室の、
応接室……)
現実感が、
まだ戻らない。
一ノ瀬は、
向かいの席に座ると、
すぐに表情を切り替えた。
「早速だが」
「マサト。
今回の件、報告してくれ」
「はい」
マサトは、
一礼してから口を開く。
「今回の一件ですが」
「政治家が、
絡んでいる可能性が高いです」
友梨の胸が、
ひくりと跳ねる。
「政治家……?」
「はい」
「匿名告発の経路、
捜査の踏み込み方」
「いずれも、
通常の案件とは異なります」
淡々と、
しかし重い言葉。
「裏で、
糸を引いている人物が
いるはずです」
一ノ瀬が、
静かに頷く。
「……だが?」
「現時点では」
マサトは、
一拍置いて続けた。
「そこまでしか、
特定できていません」
「ただ――」
視線が、一ノ瀬へ向く。
「これだけで
終わる案件とは、
考えにくいです」
その言葉が、応接室に、
重く落ちた。
友梨は、無意識に、
指先を握りしめていた。
(……やっぱり)
(終わってなんて、
いなかった)
その横で、一ノ瀬は、
視線を伏せたまま、
静かに言った。
「……想定どおりだな」
それは、
慰めでも、
安心でもなかった。
——ここからが、
本当の始まりだと、
告げる声だった。