社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした
——数分後。
一ノ瀬が戻ってきた。
「お嬢さん。タクシー、見つけました」
路地の出口に停まっていたのは、
タクシーとは思えないほど
黒光りする高級車——ベントレー。
友梨は思わず目を丸くする。
「……タクシー、ですか? これ」
「個人タクシーってやつ。
たまにいるんですよ」
さらっと言って、
一ノ瀬はドアを開ける。
友梨は、
まだ動悸が残る胸を押さえながら
乗り込んだ。
「本当に、ありがとうございました」
「気をつけて帰ってください」
車が走り出す。
テールランプが遠ざかるのを見送ってから、
一ノ瀬は小さく息を吐いた。
そして、暗がりに向けて言う。
「……マサト。そこにいるんだろ」
大柄な男——マサトが姿を現す。
「社長。だから言ったじゃないですか。
危ないって」
「大丈夫だって。……それより」
一ノ瀬はベントレーのほうを顎で指す。
「おまえ、あの車回したのか」
「結果的に一番早いです。社用車ですが」
「……お前、ほんと気が利くな」
呆れたように笑って、
一ノ瀬は歩き出した。
——清掃員の格好のまま。
けれど、その背中には、
妙な“場慣れ”がある。
一ノ瀬 海。
大手ベンチャー企業の創業者。
IT、不動産、金融を束ねる
グローバルホールディングの代表。
そして、合気道の有段者。
隣を歩くマサトは、
東大卒、元傭兵という異色の経歴を持つ
ボディガード兼秘書。
「社長。車、戻りました」
「ありがとう。助かった」
一ノ瀬は短くそう言って、
深夜の街へ、静かに溶けていった。
その夜の出会いが、
三条友梨の“人生”を、
少しずつ狂わせていくことも知らずに。
一ノ瀬が戻ってきた。
「お嬢さん。タクシー、見つけました」
路地の出口に停まっていたのは、
タクシーとは思えないほど
黒光りする高級車——ベントレー。
友梨は思わず目を丸くする。
「……タクシー、ですか? これ」
「個人タクシーってやつ。
たまにいるんですよ」
さらっと言って、
一ノ瀬はドアを開ける。
友梨は、
まだ動悸が残る胸を押さえながら
乗り込んだ。
「本当に、ありがとうございました」
「気をつけて帰ってください」
車が走り出す。
テールランプが遠ざかるのを見送ってから、
一ノ瀬は小さく息を吐いた。
そして、暗がりに向けて言う。
「……マサト。そこにいるんだろ」
大柄な男——マサトが姿を現す。
「社長。だから言ったじゃないですか。
危ないって」
「大丈夫だって。……それより」
一ノ瀬はベントレーのほうを顎で指す。
「おまえ、あの車回したのか」
「結果的に一番早いです。社用車ですが」
「……お前、ほんと気が利くな」
呆れたように笑って、
一ノ瀬は歩き出した。
——清掃員の格好のまま。
けれど、その背中には、
妙な“場慣れ”がある。
一ノ瀬 海。
大手ベンチャー企業の創業者。
IT、不動産、金融を束ねる
グローバルホールディングの代表。
そして、合気道の有段者。
隣を歩くマサトは、
東大卒、元傭兵という異色の経歴を持つ
ボディガード兼秘書。
「社長。車、戻りました」
「ありがとう。助かった」
一ノ瀬は短くそう言って、
深夜の街へ、静かに溶けていった。
その夜の出会いが、
三条友梨の“人生”を、
少しずつ狂わせていくことも知らずに。