「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」
 



「え? キス?
 したか?
 そんなこと」

「……そんな恐ろしいことを言う人とは一緒に暮らせません」

 朝食の席でそう言いながら、環奈は滝本を見つめた。

「……申し訳ない。
 魔が差したんだ」

「その言い訳は絶対に許されないと思いますが」

 すると、一応、頭を下げていた滝本が顔を上げて言う。

「じゃあ、どんな言い訳なら許されるんだ?」
「えっ?」

 ……どんな言い訳なら許すんでしょうね、私は。

 っていうか、許す?

 何故、許すこと前提なのですか、と思ったが。

「どうあっても許さないということは、ここから出ていくということか」

 もともと週の半分は出て行ってますけどね……。

 でも――。

 環奈は冷静に考えてみた。

 この家は――

 家に帰ると灯りがついてる。
 (課長が早く帰ってるとき)

 美味しいご飯があるときがある。
 (課長の気分が乗ったとき)

 もうここでやめようといいながら、しょうもない長い連続ドラマを二人で見て感想を言い合う。
 (そういえば、まだ見終わってない)

 夜中にトイレに起きたら、蜘蛛が出た。
 (課長っ、助けてくださいっ!)

 ……うーむ。

 答えないでいると、滝本は茶碗をさげ、食洗機に入れはじめた。

 ふわっといつもの日常が戻ってきてしまいそうだった。

 流された方が楽だっ。
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