「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」



 いきなり、頬に触れそうな位置に手をやらないでくださいっ。

 心臓が止まりますっ。

 殺人事件ですよっ、と環奈は滝本から後退りながら思っていた。

 自分がこのソファに倒れているところに、立派な身なりの刑事が来て、
「この事件は迷宮入りです」
というところを想像した。

 『同居人の上司に、細いけど、男らしいゴツさもある綺麗な手で頬に触れられかけてショック死した』
 なんて事件、滅多にないだろうから、きっと死因はわからないだろう。

 そう思っていた。

「いや、単にメガネ外した状態の顔を確認しようとしただけだ」

 そんなこと、しれっとした顔で言わないでくださいっ。

 キスしたあともそうですよっ。

 普通すぎですっ。

 私だけが動揺してるみたいで、莫迦みたいじゃないですかっ、
と思う環奈には、滝本の心の中の動揺はまったく伝わってはいなかった。

 


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