婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「大事にする。これから、よろしく」


再び車に戻り、シートベルトを締めた私に琉生さんが真摯な口調で告げた。


「私の方こそ……よろしくお願いします」


綺麗な二重の目を細める姿に律儀な人だと改めて思う。

空港で助けてもらった日から、琉生さんは多少強引なところはあっても決して無理強いはしなかった。

ひとつひとつの物事をきちんと説明し、私の決意が固まるまでいつも待ってくれる。

挨拶はもちろん、些細な出来事にも当たり前のように感謝と謝罪を口にしてくれる。

琉生さんの誠実な人柄は短い時間の中で十分感じていた。


「蕗?」


黙って見つめていたせいか、訝しむように顔を覗き込まれ慌てて口を開く。


「あ、ええと、その、今まで以上に家事もがんばるので」


「蕗はもう十分がんばっているよ。もっとゆっくりでいい」


返された言葉に思わず目を見開く。

ドキンドキンと鼓動が早鐘を打つ。

三年間、大切にしまい込んでいた思い出の蓋がふいに外れてこぼれ出す。

あのときの彼が琉生さんなわけがない。

面差しもはっきりわからないし、記憶の中の声はもうどこかおぼろげだ。

ただ、向けられた言葉だけはしっかり覚えている。

この三年間、なにかに迷ったり悩んだりしたときは、支えのように思い出していた。

そんな都合の良い偶然があるはずないし、思い出の男性と琉生さんを重ねるつもりはないのに、心がみっともないくらいにかき乱される。
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