婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
『世間知らずのお前に教えてやる。あいつには長年想っている女がいる。恩人とも言える大切な相手だそうだ』
 

ふいに従弟の言葉が脳裏に浮かんだ。
 

もしや江口さんは琉生さんの想う人を知っている? 


まさか瑛斗の知り合いの客室乗務員って……。


思い至った可能性に血の気が引く。
 
胸の中に大きく重い塊が埋め込まれたみたいに息が苦しくなる。

ダメだ、女性たちが祝福してくれている場で悲しい表情なんて見せられない。

そう思うのに、胸が詰まって笑顔を保てない。


琉生さんは、誰を想って幸せな表情を浮かべていたの? 


甘い仕草も女性たちに伝えた言葉の数々も私に向けられたものじゃない。

思い描いていたのはきっと違う人だ。

恋愛感情はなくお互いのメリットのため、疑われない演技をすると約束して結婚したばかりなのに。

こんな出だしからすでにつまずいている。
 
これから会社に報告して、今以上に大勢から結婚について尋ねられる。

なにより結婚生活は今、始まったばかりだ。
 
それなのに、胸が張り裂けそうに痛い。

祝福がつらくて心が悲鳴を上げている。
 
彼は色恋が滲まない、割り切った関係を望んでいたのだから、今になって壊すわけにはいかない。

きちんと自分の責務は果たさなくては。

この結婚が破綻して困るのは私なのだから。

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