婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「湯沢さんもおめでとう」
 

江口さんの完璧な微笑みに口角を上げて応対する。

笑みを貼り付けた頬が痛い。


「悪いけれど、プラネタリウムを見る予定だから失礼させてもらう」
 

絡めた指にやや力を込めて、琉生さんが女性たちに告げる。
 
それじゃ、と挨拶をする彼にならい、私は頭を下げてその場を足早に離れた。
 
琉生さんは指を絡めたまま私の少し斜め前を無言で歩き続ける。

この施設にはプラネタリウムも併設されているが、向かうための曲がり角はすでに通り過ぎてしまっている。

さっきの発言は、あの場を去るための言い訳だったのだろうか。

目の前には屋上へと続く階段が迫っている。

日没が近い今は人影がほとんど無い。


「……あの、琉生さん」
 

手を引かれながら、黙ったままの横顔にためらいながらも話しかける。


「ごめんなさい、上手に対応できなくて」
 

自分の気持ちをうまくコントロールできず、彼のような完璧な演技はできなかった。


「違う、謝るのは俺だ。蕗の気持ちも考えずに勝手に結婚について話した」
 

長い階段の手前で足を止めた彼が振り返って、私に向き直る。


「婚姻届を出したら会社に報告する予定だったし、琉生さんはなにも悪くない。私が驚いて慌ててしまって、上手く話を合わせられなくて」


「蕗は悪くない。蕗が驚いて、表情が段々強ばっていくのにも気づいていたのに、止められなかった。大事にすると言ったのに、不愉快な思いをさせて悪かった」


琉生さんは形の整った眉を寄せて苦しそうに言葉を吐き出す。
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