婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「蕗、帰ろう」
 

胸の中でうなずく私の髪を長い指が優しく撫でる。
 
顔の熱が引かないまま、彼に指を絡められ駐車場まで歩く。

道中、琉生さんが江口さんについて教えてくれた。

江口さんは大手建設会社社長令嬢だが母親が客室乗務員だった影響で幼い頃から客室乗務員を志していたそうだ。

客室乗務員とパイロットの関わりは職業上あるけれど、毎回同じ客室乗務員と一緒にフライトをするわけではない。

客室乗務員もパイロットもそれぞれに訓練などを組み込んだシフトがある。

機長と副操縦士も初対面同士でフライトを行う場合が少なくないのだ。

ただ江口さんとは同じ便に搭乗する機会が偶然多く、職種を超えた広報がらみの企画で一緒になる場合も度々あったらしい。

その縁あって、社内で会ったときなどは話す機会も多かったそうだ。

そして一年ほど前に告白されたという。

偶然にも琉生さんの実家と江口さんの実家は仕事上の付き合いが多少あったらしく、江口さんの御両親が強く結婚を望まれたそうだ。


「俺はきっぱり断わったが、なかなか納得してもらえなかった。決まった相手がいないのなら試しに交際して考えてほしいと、うちの親にまで彼女の御両親が押しかけようとしていて、仕方なく想う人がいると事情を話したんだ」
 

そのため江口さんは三年前の出来事を知っていたそうだ。

当時彼は私の名前を含めなにも知らないため、江口さんは半信半疑だったらしく、一旦引き下がりはしたけれど、あきらめないと言われていたという。
< 120 / 185 >

この作品をシェア

pagetop